WILD NOTHING『Nocturne』(Capturedtracks / よしもとアール・アンド・シー )

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WILD NOTHING『Nocturne』.jpg ワイルド・ナッシングことジャック・テイタムは、80年代UKインディー・ポップへの憧憬を抱いている。ジャック自身インタビューでザ・スミスやキュアーに対するリスペクトを公言しているが、この憧憬は、『Gemini』から2年振りとなるアルバム『Nocturne』においても、ジャックの底流を成す重要なものであるようだ。親しみやすいグッド・メロディーに、シンプルながらもキャッチーなリズム。謂わばポップ・ミュージックの普遍性とも言える要素を抽出し、磨きあげた歌が詰まっている点も前作と変わっていない。

 スマッシング・パンプキンズのストリングス・ワークを参考にした「Shadow」など、90年代に影響を受けた音楽が多い昨今の潮流と共振する曲もあるが、これは流行を意識したというより、ジャックの嗜好が素直に反映されただけのように思える。アルバム全体を通して聴くと、やはり従来の80年代UKインディー・ポップ的要素が随所で見られるし、そういった意味でジャックは、良く言えばマイペース、悪く言えば流行に鈍感な人なのかもしれない。

 だからといってまったく変化がないわけではなく、「Counting Days」「The Blue Dress」は従来のワイルド・ナッシングには見られなかったメタリックな質感を湛えているし、「This Chain Won't Break」には、スパイスとしてダブ的処理が施されるなど、明確な音楽的前進が窺える曲もある。これらの曲は、音楽リスナーとしてジャックが備えている多様性と、ワイルド・ナッシングを"ドリーム・ポップ"なる単一タグで語る者に対する反抗心が垣間見えるようで面白い。

 とはいえ、本作の一番の魅力は、ディレイドな者たちに捧げられた美しいプレゼントであることだろう。凄まじいスピードで情報が飛びかう現代において、流行の移りかわりが激しいのは当たりまえとなっているし、多くのポップ・ミュージックは、ひとつの消費物として瞬く間に捨てさられる運命にある。

 だからこそジャックは、ひとつの消費物となることを拒むかのようにそれぞれがオリジナリティーを追求し、ナイーヴながらも多くの人に受けつがれるだけの音楽を残した、80年代UKインディー・ポップにシンパシーを抱くのかもしれない。

 このシンパシーは、本作に"時の流れ"というある種残酷なものに耐えうる強度をもたらし、さらに"ポップ・ミュージックにはこうあってほしい"というジャックの願望と相まって、"人と人を繋ぐためのポップ・ミュージック"として愛されるクリアなピュアネスを獲得している。

 本作のクリアなピュアネスについては、プロデューサーを務めたニコラス・ヴェルネスの仕事や、設備が整ったニューヨークのスタジオに入って制作されたこともあるのだろうが、それ以上に本作がクリアな音像となり、リバーブやディレイの海に溺れていないのは、ジャックのポップ・ミュージックに対する理想主義が貫かれているからではないだろうか。その理想とはおそらく、普遍的なものとしてのポップ・ミュージック、それこそ先述した、"人と人を繋ぐためのポップ・ミュージック"だと思う。前作より開かれた印象を抱かせる本作を聴くと、そう思えてならない。

 

(近藤真弥)

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