THE XX『Coexist』(Young Turks / Hostess)

THE XX『Coexist』.jpg ジェイミーに続きロミーもDJ活動を始めた影響か、音の抜き差しで起伏を生みだすダンス・ミュージック的アプローチが多くなっているとはいえ、ジ・エックス・エックスのニュー・アルバム『Coexist(コエグジスト)』は、前作とは打って変わって、と言えるほどの大変化作ではない。本作でもジェイミー・スミス、ロミー・マドリー・クラフト、オリヴァー・シムの3人は、極限にまで削ぎ落とされたメランコリックなミニマル・サウンドを展開しているし、歌詞のほうも、前作同様ラブソングがほとんどだ。それでも本作は、前作よりも深みが増すことによって、感動的な作品に仕上がったと断言できる。

 もちろんそうした作品になった要因は数多くあるが、そのなかでも特筆しておきたいのは、奥行きが増したサウンド・プロダクション。これはおそらく、前作から引き続きプロデュースを務めたジェイミーの経験が反映されているのではないだろうか。

 前作リリース以降、故ギル・スコット・ヘロンの『I'm New Here』をリワーキングした『We're New Here』をリリースし、他にも様々なアーティストのリミックスを手掛けるなど、ジェイミーはプロデューサーとして注目を集めるようになるが、これらのプロデュース業で培ったノウハウが本作のサウンド・プロダクションに影響を与えているのは間違いない。全曲において音のない空間やタメが上手く生かされ、その空間やタメと絡みあう形で、繊細かつ丁寧なエフェクトが施されている。さらには丹念なイコライジングが随所で効果的に作用するなど、細かいところにまで神経が行き届いた本作のサウンド・プロダクションは、ドラマチックな情的豊穣さを本作にもたらしている。

 その豊穣さを際立たせる歌詞も、本当に素晴らしい。ひとえにラブソングといっても、そこで語られている"愛"は様々な視点からの考察を受け、平易ながらも、"愛"の本質に迫るかのような言葉で綴られている。先述したように、前作同様ラブソングが多い本作ではあるが、恋愛に対する憧れや期待、希望といったものを通した外視的ラブソングが多かった前作に比べ、本作のラブソングは、よりパーソナルな心情を通して描かれている。様々な出来事を経て成長した姿をシンプルに表現した3人の歌は、ある種の普遍的共感を誘うものだと言える。

 ちなみに本作は、ジェイミーが見つけたアパートをスタジオとし、そこに機材を持ちこみ3人だけで制作が進められたそうだ。そうした環境だと、近寄りがたい内省的作品になりそうなものだが、不思議なことに、3人の内的要素を表現しただけとも言える本作には、内省に陥らない芯の強さがある。この強さは、"共存"を意味するアルバムタイトルが示すように、三者三様の嗜好を持つ者たちが集まり成り立っているジ・エックス・エックスだからこそ得られるものだ。

 それはポジティヴとネガティヴが同率に反映された本作の歌詞からも窺えることで、そんな3人の歌には、"悪いことばかりではないさ"とでも言いたげな、様々な感情や価値観の存在を認めようとする前向きな"肯定"がある。こうしたジ・エックス・エックスの在り方は、人という存在の真実に極めて近いものだと思うし、本作の"肯定"は、何ものも排除しないという音楽の真理と相まって、聴き手の情操を揺さぶる"ナニカ"を見事に獲得している。

 

(近藤真弥)

 

【編集部注】 本作は9月5日リリース

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