THE ORB FEATURING LEE SCRATCH PERRY『The Orbserver In The Star House』(Cocking Vinyl / Beat)

THE ORB feat. LEE SCRATCH PERRY.jpgのサムネール画像 7月27日、照りつける強い日差しと涼しげな夕暮れを予感させるやさしい風が混ざり合う午後4時すぎ。僕はフジロックのオレンジ・コートに辿り着いた。ステージにはジャー・ウォブル&キース・レヴィンのユニットが"Metal Box In Dub"と題されたパフォーマンスを繰り広げていた。デニム・シャツの裾をジーパンにしっかりインしているジャー・ウォブルとビートルズのTシャツを着た痩せすぎのキース・レヴィンのルックスからは、オリジナル・パンクスのトゲトゲしさは感じられない。けれども、ジャーが鳴らす重量級のベース・ラインは地響きのようだ。キースのシャープなリフは、聞き慣れたはずの原曲に鮮やかな躍動感を与えている。僕は汗を拭いながら、ジャマイカのサウンド・システムを夢想する。ぶつかり合うほどではない人混みの中で、誰もがゆっくりと体を揺らしていた。キングストンの屋外パーティから"冷たい鋼の箱"の中へ封じ込められたダブ・サウンドは、2012年の日本でもう一度、太陽の下に解き放たれていた。レゲエ/ダブは、音楽そのものが旅のようだ。時と場所を越えて、思いがけず僕たちの前に現れる。

 そんな旅の途中で、もうひとつ実り豊かなアルバムが生まれた。パンク/ポスト・パンクから30年。その間にも様々な邂逅を果たしてきたダブ・サウンドが今、アンビエント・テクノと寄り添う。ジ・オーブとリー・スクラッチ・ペリーとのコラボレーション『The Orbserver In The Star House』が最高にカッコいい!

 50年代後半のジャマイカで活動を始めたリー・ペリーは、レゲエ誕生の瞬間から黎明期、そして現在まで精力的に作品を生み出し続けるプロデューサー兼ミュージシャン。70年代初期のボブ・マーリーのプロデュース、リー・ペリー自身のユニットであるアップセッターズでの活動など、レゲエ/ダブの発展に大きな功績を残してきた。僕にとっては、このアルバムにもセルフ・カヴァーが収録されている「Police & Thieves」をジュニア・マーヴィンと共作したことでも馴染み深い。「ポリスとコソ泥」という素敵な邦題が付いているこの曲は、クラッシュが1stアルバムでカヴァー。後にその曲を聴いたリー・ペリーはクラッシュのシングル「Complete Control」のプロデュースを引き受け、70年代後半のパンク/ポスト・パンクがレゲエ/ダブに接近する大きなきっかけを作った。

 1959年にロンドン近郊で生まれて、1988年からジ・オーブを本格的にスタートさせたアレックス・パターソンもきっとパンクを目の当たりにしてきたキッズだったはず。そんなふうに考えると、このコラボレーションも決して意外ではないのかも。緩やかなBPMのオーガニックなサウンドが一曲一曲を包み込む。ホーンやアコースティック・ギター、シェイカーなどのサンプリングが心地よく響く。76歳になったリー・ペリーの声は、とぼけた道化師のようにも、すべてを知り尽くした賢者のようにも聞こえる。スティーヴ・ライヒをサンプリングしたジ・オーブの代表曲「Little Fluffy Clouds」へのセルフ・オマージュ「Golden Clouds」の遊び心、先述の「Police & Thieves」を現代に甦らせるユニークで豊かなアイデアなど、聴きどころも満載。テクノ、ハウス、ブレイクビーツとダブが混ざり合ったサウンドは鮮やかだ。クスリや葉っぱがなくてもOKだと思う。

 8月最後の金曜日、僕は国会議事堂前のデモに参加した。響き渡る「原発、いらない!」「再稼働、反対!」のコールと太鼓の音。帰りの電車の中で聴いたこのアルバムが不意に重なり合った。レベル・ミュージックとしての側面を持つレゲエとダブの深み。政府に声を上げるなんて、遠い国の出来事だと思っていた。それがいま、リアルに響く。そのビートは心臓の鼓動に似ていた。

(犬飼一郎)

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