OGRE YOU ASSHOLE『100年後』(Vap)

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ORGE YOU ASSHOLE 100.jpg それまでは一部メディアでは何らかの形で、アニマル・コレクティヴ、モデスト・マウスなどUSインディー・シーンとの共振、親和の枠で語られるところから確実に舵を切り、AOR的な意匠を含み、柔らかな無的な何かへの降下を望みながらも不穏なサイケデリアが覆っていた転機作『homely』。毀誉褒貶が分かれたが、聴取者に何らかの壁を置き、敢えて拒むようなノーマンズ・ランド的サウンド・デザイン、モダンネスの尖りは彼らの覚悟が伺えた。

  そして、この『100年後』は新しいフェイズに更に踏み込んでいる。物悲しいトーンとかなりシェイプされた音像が真っ先に飛び込んでくる。「100年後には今あるものは何もない、生きている人もいないと思うとホッとする」と述べているギター、ボーカルの出戸氏の発言があるとおり、世界から少し外れ、チューニングのズレた場所で、静かに音楽でトリップしてみせる、そんな様がオウガ・ユー・アスホールの一つの美しさだったとしたら、この9曲は、筒井康隆の1989年に発表したSF小説『残像に口紅を』ではないが、どんどん使える文字がなくなっていき、最後には《なにもない》(「泡になって」)という言葉が「ある」ということを突き詰めてゆくエクスペリメンタルな試行の痕と浮遊感がある。それでも、コンセプチュアルという文脈では、今作はより構成は練られている。

 オウガは、現在、オリジナル・メンバーは出戸氏以外に、ギターの馬渕氏、ドラムの勝浦氏の3ピースになっている。囲む敏腕のサポート・メンバー、プロデューサー、エンジニア、精鋭の鉄壁の布陣にある。例えば、前作のときにも挙げたが、後期のフィッシュマンズ、ゆらゆら帝国が最後に向かっていったときに残ったものは空気の"揺らぎ"とほのかな光へ向けての近い希求的な何かだったが、確実に彼らもそういった境地にリーチしようとしているのがほのかに可視化出来ながら、そういった訳でもないのも面白い。

  リードでMV公開されていた「夜の船」はメロディーと滑らかなサウンド・メイクだけ捉えれば、これまで以上に拓かれたポピュラーさがあるのも然り、これまで以上に求心力と透き通った音風景に魅せられる。ドリーミーであり、ヒプナゴジカルな要素とともに、時おりフッと引っかかるメロディーから、その時の感情の揺れで多くのミーニングで捉えられそうな耳に残る直截的な歌詞は彫像美みたく、触れた途端、折れてしまいそうな繊細さもありながらも、無比の世界観の生成は極まった。今の時代のぼんやりと漂う不穏さとシンクするとともに、なだめすかすムードがあるのも麗しい。

 ただ、ここまでの境地まで入ってしまった彼らのネクスト・フェイズが既に気になってもしまうのも杞憂だろうか。最終曲の《なにもないからどうにでもなれる》(「泡になって」)に沿うならば、そのどうにでも、はどうなるのか。どうなった結果のオウガはさらに捉えようのない化け方をしてゆくのか、分岐点というよりは、分かれ道を自ら設定したアルバムだという推察も出来る。聴き手、受け手は踏まえて、けもの道を行くのか、舗装された道を行くのか、は見えない。

 それでも、言葉と音の混じり合いが存外、セクシュアルでしっかり、トバしてくれる感覚がある所為か、そこまで窮状に神経が詰められるというよりも、彼らの提示するプレートに足を乗せたら、極北の幻想へと運んでくれる節もある。極北の幻想―そのイメージは幸福なのか、不幸なのか、把握するには"100年"ではおそらく足りないだろう。シンプルに削ぎ落とされたタイトル名。「これから」、「夜の船」、「素敵な予感」、「100年後」、「すべて大丈夫」、「黒い窓」、「記憶に残らない」、「泡になって」のとおり、ネガ・ポジを往来するというよりも、保有していた予感があらかじめ刈り取られるようなその線の上で、9曲の総体が想像の限界地点に置かれる。

  これを『LONG SEASON』の揺蕩いへの接近と迎えるには、牧歌的な時代の話で、暗がりを帯び、ソフトな質感で何らかの終わりに向かうのが彼らの今のスタンスを示す。終末思想でも諦観でもない、オウガが作品を重ねていく中で、見えてきたリアリティを音に歌詞に落とし込んだとき、以前のようなカラフルさと螺子の外れたアレンジメントは必要なかったという真摯なジャッジなのだろう。そのジャッジは、曖昧な藪の中に隠される可能性もある、それがこの作品の持つ深みだと思う。

 「深度」は「進度」とともに、彼らの在り方は反転的に極北の有的な何かへと対峙していこうとするのは胸打たれる。今、彼らは過度の装飾や意匠もなく、身一つのままで「100年後」を夢想する。サイケデリックな浮遊感と要所に響くフレーズや音色、メロディー、オウガは孤高の場所に立つことになった。孤高に立ったからこそ、見渡せる未来はどこまで先なのだろうか。

 

(松浦達)

 

【編集注】9月19日リリース予定。

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