MARIA MINERVA『Will Happiness Find Me?』(Not Not Fun)

Maria Minerva『Will Happiness Find Me?』.jpgのサムネール画像 結論から言うと、エストニア出身の女性アーティスト、マリア・ミネルウァにとって2枚目となるフル・アルバム『Will Happiness Find Me?』は、ポジティヴなヴァイヴと情熱に満ちている。

 まず目を惹かれるのが、"幸せは私を見つけてくれるの?"と読める、少々不安げな心情を覗かせたアルバムタイトル。しかし曲名のほうは、「Never Give Up」「Mad Girl's Love Song」」、そしてアルバムタイトルを副題にしているのが示唆的な「I Dont Wanna Be Discovered (Will Happiness Find Me?)」など、前を向くマリアの姿が目に浮かぶものが多い。そのなかでも特に面白いのが「Mad Girl's Love Song」で、これは告白派の詩人として知られるシルヴィア・プラスの、その名もズバリ「Mad Girl's Love Song」という作品から引用したタイトルだ。

 シルヴィア・プラスといえば、生々しい性的イメージを読み手に抱かせる「黒いちご摘み」や、不眠症の男が見る悪夢を切り取った「不眠症患者」など、極限状態のなかから生まれる一場面を抽出したような詩を書いてきたことで知られ、また、今年の4月に公開された、ファッション評論家のダイアン・ぺルネと映画監督セニオ・ザプルーダーによるショート・ムービー『Shaded Fabulae Romanae』もシルヴィアの作品からインスピレーション(これまた「Mad Girl's Love Song」)を受けるなど、いまなお絶大な影響力を持つ詩人である。

 シルヴィアは、ガスオーブンに頭を突っ込んで自ら命を絶つまで、世間体と自らの本質とのギャップに苦しみ、そのギャップが自殺を促した要因のひとつとされているが、筆者はそんな彼女のギャップと、本作のアルバムタイトルと曲名のあいだにある温度差がダブって見えてしまう。とはいえ、本作には重苦しい雰囲気など皆無だ。むしろマリアは、自身のギャップ(温度差)と向きあい、それを"そのままでいい"とばかりに肯定することで、本作に開放感と多様な音楽性をもたらしている。

 「I Dont Wanna Be Discovered (Will Happiness Find Me)」など、本作でもマリアの十八番であるハウス・トラックは聴けるが、オリエンタル・サウンドが印象的な「The Sound」、ダブ的処理を施した「Perpetual Motion Machine」、さらにはリズミカルな歌唱と目まぐるしい展開がキャッチーに響く「Sweet Synergy」のような曲もあり、本作はこれまでマリアが生みだしてきたどの作品よりもバラエティー豊かなものとなっていて、マリアの音楽的ポテンシャルが見事に花開いた作品である。そして、この多様性と先述の温度差、それはまるで、マリアの奥底に宿る闘志が露わになっているようで、感動的なまでの力強さを感じさせるものだ。

 この闘志と力強さの理由を、マリアの出身地であるエストニアの歴史に求めることも可能だろう。エストニアはナチスとロシアに支配されていた過去を持ち、ソ連時代にはロシア化政策を推し進められロシア人が多く住むようになるが、1992年には増えすぎたロシア人を排除するため、エストニア政府が市民法に制限を加えるなど、何かといざこざが多い国である。また、政府がソ連時代のモニュメントを撤去したことで暴動になった、いわゆる《タリン解放記念碑撤去事件》が起きたのも記憶に新しい。こうしたエストニアの歴史が、マリア・ミネルウァの背景にあるのは確かだ。

 だが筆者は、マリアが自身のなかに在る音楽を素直に表現していることに深く感動するし、特筆したい。マリアのセンスをもってすれば、本作のギャップなど簡単に取り繕って隠したような作品を作りあげることもできたはずで、しかしマリアは、本作においてマリア・ユール(マリアの本名)というひとりの女性を表現している。そんな境地にマリアが至ったことに、もっとも拍手が送られるべきではないだろうか? もちろんエストニアという国、それからフェミニズムと関連付けられることも多いシルヴィア・プラスが引用された本作を、ポリティカルな言説で評価することもできるが、普遍的共感を誘う歌が収められた本作は、政治やジャーナリズムの持つ言語では到底捉えきれない位置にある。それに音楽って、そうした言語では語りきれないナニカを掴むためのものでしょ? このことを、テクニックは最低限、しかし情熱は最大限のマリアは雄弁に教えてくれる。

 

(近藤真弥)

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