VARIOUS ARTISTS『Ripple』(File-Under / Knew Noise)

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RIPPLE.jpg 名古屋周辺のシーンが今は面白い、と言ってもどこまで既存のメディアが踏み入っているのか分からないのだが、ライヴ・ハウス、バンドやアーティスト同士の連帯、さらに今の時代においてのノー・ウェーヴ的な胎動はアクチュアルで、70年代末から80年代初頭のNYの地下の動きを彷彿とさせる。メイン・ストリーム(本流)があって、オルタナティヴ(代案)が生まれたときには、オルタナティヴにはニルヴァーナもパール・ジャムなどが居た訳だが、あの90年代においてはオルタナティヴが真ん中になってしまうディレンマと訴求性の内に、時代の変遷ととともに、現在ではむしろオルタナティヴであることとは自家中毒になってしまう可能余地もある。その点、名古屋周辺のシーンはカテゴリーも脱中心や非・意味でもなく、各々が各々のリアリティをしっかり音楽を通じて照射しているところが察せられる。

 東京のモダーン・ミュージックのコンピレーション『Tokyo Flashback』を彷彿させる形で、この名古屋でも、異彩な熱を放つレコード・ショップの《File-Under Records/Knew Noise Recordings》がこのたび、『Ripple』という作品をリリースしたが、実に興味深い内容になっている。《Knew Noise Recordings》といえば、BO NINGEN、COMANECHI、世界的なバンドなどをリリースしているが、この『Ripple』に入っている12バンド、アーティストも殆ど、この店でCDやCD-Rの取り扱いをしており、ディレクターの山田氏が声を掛け、成立したものという。これが名古屋周辺のシーンを網羅している訳ではないものの、確実に一部の熱量を伝える充実したものになっていると思う。

 1曲目のPOP OFFICE「Epicureanism」から、テレヴィジョン『Marquee Moon』のようなストイックで鋭利なサウンドが響く。ボーカル/ベースのシマダの張り上げない歌唱、印象的なナカネのギター、手数の多くないエリコのドラムがしかし、じわじわと熱を帯びていき、ヴェルヴェッツ『ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート』で見られるガラスの表面を引っ掻くみたく軋むノイズに攫われる展開は美しい。ブックレットの白黒で四人が佇む姿がクールなNicFitは、かのゆらゆら帝国が鳴らしていたみたいな、あの鮮烈なギターからスウィングできるロックンロールを突き進む。3曲目のドロロニカ「Electric Wasanbon」は、《遊びは終わりだ。お前の負けだぜ。》というフレーズが耳に残る。水野ベルロウのサックスも不穏に響き、締まったアンサンブルで漆黒と鬩ぎ合う。

 一転、4曲目のフリーダム「サイコー」はロミー、ハドソン、カイマキの女性三人からなるバンドで骨組みに絞ったアレンジメント、妙な魔術性で《なんだか サイコー》というリフレインが残るものになっている。声の雰囲気から相対性理論的な何かを感じる人も居るかもしれないが、1分23秒目ほどからのノイズはそういった安易な同一化をかわす逞しさも持っている。5曲目のSika Sikaは知っている方も多いと思うが、この『Ripple』のために新たにレコーディングした曲「Gimme Gimme」はアグレッシヴなパンク・チューン。潔い49秒の時間に、しかし、Sika Sikaの存在はしっかりと刻まれている。6曲目の世界的なバンド。STYLE BAND TOKYOのコンピレーションの参加、今年の1月のファースト・アルバムのリリース、ツアーもあり、注目を浴びている3ピース。この「NEW」では、淡々としたリズムと抑制されたアンサンブルの中で6分を越える中で、トランシーな感覚をもたらせる。個人的に、ソニック・ユースの『ア・サウザンド・リーヴズ』辺りの温度を思わせた。つまりは、世界的なバンドにとってまだまだこれからがあるという引き出しを示した一曲だと思う。7曲目のZymotics「I Am The Whole Chinese People」のポエトリー・リーディング的に囁くような声と残響、無機的かつ主張しないサウンドといい、非常に魅かれる1曲になっており、名古屋周辺のシーンの懐の深さとポテンシャルを感じさせる。8曲目のFree City Noise「Permanent Touches」はフックのあるメロディーが浮かぶガレージ・ロック。Inadahiromiのフィメール・ボーカルもその独特の空気感を増長させており、一度、ライヴで体験してみたくなる1曲。

 9曲目のThe Moments「Shining Eyes」はネオアコ、アノラック的な清冽さが詰まっている。プライマル・スクリームの『Sonic Flower Groove』の持つ儚くも美しい「小声」がある。10曲目の6Eyes「Blank In Flag」はノー・ウェイヴらしいこのコンピレーションの持つ意味と彼らのバンドとしてのスタイルが明確に顕れた佳曲になっている。11曲目、Jubilee「Fiend」は名古屋で自主企画イヴェントを行なうなど既に、アンダーグラウンド・シーンの中では着実な活動を進めているバンドであり、この曲でもポスト・パンクの血脈を辿り、蠱惑性を醸している。12曲目の石原ヨシト「ニューメキシコ ミッドナイト カウボーイ NO.1(I don't wanna be killed by your romance any more)」は、ヘイデンを思わせる抒情的で寂寥溢れるフォーク。《愛とセックスをミキサーに入れて 今朝飲もうとしたら 僕もうわからなくなりました》というフレーズがしみじみと胸を打つ。

 この『Ripple』に集まったバンド、アーティストは多種多様だが、通じているものとしてセックスとデカダンスの馨りがするということだろうか。地下のライヴ・ハウスで行われる遣り取りとは時おり、とてもセクシュアルなものであり、非常にアンニュイで刹那く悲しいものでもある。それが終われば、階段を上がり、地上に、それぞれの日常に戻らないといけない訳だから。

 真夏の太陽の光眩しさに背くように、暗闇に亀裂を入れるために描かれたこの『Ripple』はとても生々しい。そんな、生々しさはさざなみ(ripple)のように、着実に多くの意志ある人の耳に響くことと思う。そこから、更に各々の中でも気に入ったバンドやアーティストと新しい出会いがあれば、また拡がってゆく世界観もあるかもしれない。

 

(松浦達)

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