VARIOUS ARTISTS『Footwork On Hard Hard Hard!!』(Thanks Giving)

|

FOH3_RGB300.jpg シカゴ・アンダーグラウンド・ミュージックそのものが主流となってシーンを席巻したことは、音楽の歴史上ほとんどない。もちろん愛されてこなかったわけではない。90年代半ばには、デリック・メイ、ジェフ・ミルズらがゲットー・ハウスをDJプレイにて取りあげ、それをキッカケに"シカゴ・リバイバル"と呼ばれる現象が起きたし、ハードフロアは自身のアシッド・サウンドのルーツであるシカゴ・ハウスに接近した作品、その名もズバリ『Respect』をリリースしている。とはいえ、これまでのシカゴに対する注目は、外部の流れに影響を受けてのものだった。それは言いかえると、シカゴ・アンダーグラウンド・ミュージックに他ジャンルを飲みこむだけのパワーがなかったということなのかもしれない。

 だが、BPM160/80のハーフ・テンポ感や大胆なサンプリング、そして味のあるズレたビートといった多様な要素を持つジューク/フットワークは、シカゴ発のダンス・ミュージック(そしてブラック・ミュージック)でありながら、UKガラージ、ヒップホップ、さらにはビート・ミュージックやテクノといった音楽を飲みこみつつある。そういった意味でジューク/フットワークは、ダブステップの順応性を遥かに超えた"何でもアリ"な音楽であり、これまでのシカゴ・ブームとは異なるものであることは明白だ。世界的に知られたのは《Planet Mu》という外部によるフックアップのおかげだが、その後のジューク/フットワークは"サブジャンル"といった何かの一部ではなく、これまでにない独特なダンス・ミュージックとして拡散している。この拡散の延長線上で生まれた面白い作品が、『Footwork On Hard Hard Hard!!』だ。

 本作は国内外のトラックメイカーによるジューク/フットワークを集めたコンピレーション・アルバムで、ジューク/フットワークのレイヴな一面をフィーチャーしているせいか、全体的にアッパーなトラックが多い。しかし、前のめりなグルーヴが印象的な隼人6号によるレイヴ・ジューク「Party」や、ブレイクコアとの親和性を感じさせるマッドメイド「Mellow」、ラフなプロダクションによって深さを生みだしているD.J.フルトノ「Hardcore Bitch」など、収録内容としては画一的になっておらず、ジューク/フットワークの多様性をハードな初期衝動と共に表現している。ただ忘れてはならないのが、この初期衝動は現在進行形のものであり、おそらく本作をキッカケにさらなる広がりを見せていくということ。その可能性があるからこそ、トラックスマンのようなレジェンドが本作に参加したのだろう。トラックスマンの気持ちも分かるというか、本作は多くの人を惹きつけるだけの熱狂に満ちている。

 しかし、ジューク/フットワークは作り手の背景が反映されやすい音楽だとつくづく思う。例えば、ヒンドゥースターニーなどのインド古典音楽と西洋音楽では拍子(リズム)の捉え方が違うように、拍子にはそれぞれの土地/国に由来した土着的要素がついてまわる。だからこそ、基本的にリズムの音楽であるジューク/フットワークは、作り手の音楽的体験が反映されやすいのだと思う。こうした奥深さを知ることができるという意味でも、本作は良盤だと言える。

  

(近藤真弥)

 

※本作は7月25日リリース予定です。

retweet