THE VIEW『Cheeky For A Reason』(Cooking Vinyl / Yoshimoto R&C)

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THE VIEW.jpg 2012年の夏休み。僕はザ・ヴューの4thアルバム『Cheeky For A Reason』をくり返し聴いている。この夏のサウンド・トラックになりそうだ。殴り書きされたバンド・ロゴとモノクロのポートレート、不揃いのタイトル・フォント。オシャレでもなくて、ポーズさえも取らない4人のメンバーを写しただけのジャケットは、70年代後半頃のパンク/ポストパンク・バンドみたい。ドクター・フィールグッド『Down By The Jetty』、ザ・ジャム『In The City』、ストラングラーズ『Black And White』とか。そう言えば、スペシャルズの1stアルバムは、《2トーン》と名付けられたレーベル運営からメンバー構成まで文字通り「ブラック&ホワイト」を実行するスタンスを表していたっけ。ザ・ヴューの新作を手に取りながら、僕は改めてそんなことを思った。印象に残るモノクロ・ジャケットのアルバムは、サウンドもソリッドでダイレクト。アート・ワークが音楽を可視化する表現だとしたら、それは偶然じゃないはず。

 前作『Bread And Circuses』から約1年、思っていた以上に短いリリース・スパンでザ・ヴューが戻って来てくれた。ソニーからインディー・レーベルである《Cooking Vinyl》へ移籍したことが、彼らのフットワークを軽くさせたのかもしれない。プロデューサーには、アークティック・モンキーズやフォールズ、レイザーライトなどを手掛けたマイク・クロッシーを起用。そんなことからも、彼らの今作への意識をうかがい知ることができる。前作のサウンドを特徴づけていたストリングスは排除され、4人だけで鳴らされるロックンロール。キーボードやピアノは絶妙なアクセントとして楽曲を引き立てる。もともとラフ・トレードのA&Rマンだったジェームズ・エンデコットが立ち上げた《1965レコーズ》に所属していた彼らにとっては、いい意味での"インディー仕様"に戻ったサウンドだ。やっぱりジャケットのイメージどおり、ソリッドでダイレクト!

 アルバムは従来のザ・ヴューらしいメロディアスでアップ・テンポの「How Long」で幕を開ける。今作からの1stシングルに相応しいキャッチーなコーラスとポップなギター・リフに耳を奪われるけれど、イギリスの若手俳優マーティン・コムストンが(『Bread And Circuses』収録の「Grace」に続いて)出演するPVを見れば曲のイメージが一変するかもしれない。無邪気なラヴ・ソングかと思っていたら...、とんでもない! 自由な発想? 遊び心? それとも、挑戦的な態度? きっと、そのどれもが間違いじゃないんだと思う。バリエーション豊かな楽曲が並ぶ前半を聴き進めていくうちに、そんな気持ちが強くなる。

 カイル・ファルコナーとキーレン・ウェブスターによるソング・ライティング・チームは相変わらず絶好調。今作にはキングス・オブ・レオンをデビュー作からバック・アップしているプロデューサー/ソングライターのアンジェロ・ペトラグリアが3曲(「Hold On Now」「Bullet」「The Clock」)を2人と共作していることからもオープンなフィーリングが伝わってくる。そして、サウンドがシンプルになったからと言って、手っ取り早く"原点回帰"なんて言葉で片付けちゃいけない。5曲目「Bullet」、6曲目「Bunker (Solid Ground)」でのカイルの歌声は、スモール・フェイセズ時代のスティーヴ・マリオットや若き日のヴァン・モリスンを彷彿とさせるほどソウルフル。音数を抑えたギター・リフとタイトなリズム・セクションが"声"をいっそう際立たせる。唯一、キーレンがリード・ヴォーカルを披露する「Hole In The Head」が彼らの出自であるリバティーンズとの繋がりを思い出させるけれど、それはむしろ微笑ましいくらい。ミドル・テンポの楽曲が並んだ後半は、流れるような構成が本当に素晴らしい。3枚のアルバムを経て、彼らが着実に歩みを進めていることが実感できる。しかも、1stアルバム『Hats Off To The Buskers』の頃のフレッシュさ(輝き、と言い換えても良い)を損なわずに、だ。

 ローズ・ピアノの静謐な響きが印象的なラストの「Tacky Tattoo」(国内盤にはボーナス・トラック2曲追加)を聴き終えると、もう一度、PLAYボタンを押したくなる。オアシスみたいなスタジアム級のアンセムはいらない。リバティーンズが駆け抜けた儚いドラマもない。日本の夏フェスにも、ロンドン・オリンピックのセレモニーにも名を連ねていない。けれども、このアルバムは日本や世界のどこかで退屈な夏休みを過ごしている4人のキッズにバンドを始めさせるには充分だと思う。他に何が必要だろう? ザ・ヴューが鳴らすロックンロールは、そのモノクロ・ジャケットとは裏腹に僕たちの情景を鮮やかに染め上げる。

 

(犬飼一郎)

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