POP ETC『Pop Etc』(Rough Trade / Hostess)

popetc.jpg かつて村上龍が旅を希望と表したように、この音楽には旅という希望がある。もちろんそれは自分探しといった類のものではなく、音楽の可能性という未知の領域の中で、聴き手が思ってもみなかった可能性と出会い、音楽という表現に終わりはないと感じられる旅の楽しさと喜びだ。ポップ・ミュージックの可能性とは聴き手に宿る。

 エレクトロニック・サウンドを基調としつつ、ジャケットから窺えるように様々なジャンルの上でスキップを踏んでいるような音の数々が痛快で、前作『Big Echo』以上に磨きをかけたソング・ライティングによるポップ性とサウンド構築も相まって、それらの魅力にぐっと引きこまれる。アーサー・ラッセルやカリブー、アヴァランチーズなどを思わせるところもあるヴァリエーション豊かな楽曲群も音楽に規定を持ちこむことなく、音の旅という可能性を楽しんでいるかのようだ。現在は3人組の、モーニング・ベンダーズ改めポップ・エトセトラのサード・アルバムとなる本作『Pop Etc』は、ポップであることの可能性を示した作品であるとともに、聴き手がその可能性に出会える旅へ導くものとしてある。

 思えばグリズリー・ベアのクリス・テイラーがプロデュースした前作も、様々な音楽性の交差がひとつのテーマとしてあり、フォークやロック、ドゥー・ワップの要素が散りばめられていた。が、それは実験の意味合いよりも、音楽により一層のポップ性を与えるための要素だった。メンバーの発言によれば、アメリカではポップという言葉にネガティヴな印象がまとわりつくようだが、ポップ・エトセトラは自らをポップと名乗り、前作のドリーミーでロマンティックな音世界はそのままに、フィジカルに訴えかけてくるビートを強調したポップな本作を発表した。ポップという言葉がネガティヴに捉えられる国でポップを堂々と名乗るという、その姿勢は素晴らしいと思うし、もはや、この作品を聴いて、彼らの音楽性を前作のようにサーフ・ポップの一言で形容する人はいないだろう。シンセ・ポップとだけ形容する人もいないと思う。活動の拠点をカリフォルニアからブルックリンに移したのはサーフ・ポップという縛りをほどきたいという意思だったのかもしれない。

 本作は基本的にセルフ・プロデュース。カニエ・ウエスト等を手掛けるプロデューサー、アンドリュー・ドーソンやデンジャー・マウスも関わっているが、ポップ・エトセトラがやりたいようにやった、という印象が強い。眠りに落ちる寸前の昏睡美があれば、ハッとさせられる覚醒の力強さを押し出した曲もあり、刹那的な変拍子が楽曲の高揚の色を濃くしている。特に、水中をただよいながら外の景色を見ているような感覚を聴き手に与える、ゆったりとした、揺らぐサウンドとメロディ、歌声を聴かせる「Live It Up」は、今年の現時点ナンバー1のトラックだ。そこにはヒップホップのビートがあり、ソウルやフォークトロニカ、ハウスの要素も窺えるが、おそらく彼らは意識していないのだろう。それよりも本作において、ドレイクの影響を公言している彼らにとっては、本作は音楽的な壁もなければ、ジャンルへの過剰な意味付けもしていないことが重要だ。意味付けをしてないといっても能天気なところは一切なく、純粋にポップであることとは何なのかという、ポップ・ミュージックと向き合った末に鳴らされる音が瑞々しくて素晴らしい。聴き手にとっても、音楽に壁は存在しないんだと訴えかける説得力を持っているのが本作なのだ。その意味で、『Pop Etc』が発表された意義は大きい。

 曲名と曲順を考えるのも面白い。バンド名とタイトルにある『Pop Etc』は別個ではなく、その行間にあるのは"&"だと思う。「Pop & Etc」。曲のタイトルになっている、つぎはぎだらけの「C-O-M-M-U-N-I-C-A-T-E」を通過しておとずれる「Yoyo」のミラー・ボールの光。このバンドにとってのポップのエトセトラとは聴き手に宿り、本作を楽しんだ聴き手の数だけエトセトラは生まれ、聴き手の数だけ想像力の旅が生まれる。

 新しい道を歩むように、旅に終わりがないように、ポップ・エトセトラに限界はない。聴き手であるあなたがいる限り、可能性は広がり続ける。いつだってポップ・ミュージックは閉じていないのだから。本作があれば、たとえ小さい歩幅だったとしても僕らは新たな一歩を踏み出せる。頭を垂れるのはもうよそう。そう思える音が鳴っているのはひとつの希望だ。

 

(田中喬史)

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