HOLY BALM『It's You』(Not Not Fun)

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HOLY BALM.jpg 《Tri Angle》周辺のウィッチ・ハウスや、悟りきったような諦念をラップするタイラー・ザ・クリエイターなど、ここ数年シリアスでダークな音楽が注目を集めているように思う。

 こうした状況はこれまで幾度となく訪れているが、その都度、音楽を"たかが音楽"として捉え、真剣に悪ふざけをする愉快犯的バンド/アーティストが現れてきた。「テクノの作品のタイトルにはシリアスなものが多すぎる」と語り、『Home Run』『All Targets Down』といった、それぞれ野球とピンボールをテーマにしたアルバムを生みだしているハードフロアや、毎日働きづめで常に疲労感を抱えているような人にとっては、あまりにも無邪気すぎるポップなコミカル・コラージュ・サウンドを鳴らすブラック・ダイスなどがそうだ。そして、シドニー発の3ピース・バンドであるホーリー・バルムは、これらのバンド/アーティストに通じる快楽的音楽を標榜している。

 本作はホーリー・バルムのデビュー・アルバムにあたるが、シカゴ・ハウスの要素を窺わせるリズムと、アシッド・ハウスの酩酊感をドライなポスト・パンク的プロダクションで解釈したポップ・ソングが収められており、過剰なリバーブやディレイも施されていない。そんな本作はノイエ・ドイチェ・ヴェレ周辺の音を想起させ、いまだチルウェイヴの影響下にあるウェットな音楽が大量に生まれている現状において、その異端ぶりが際立つ作品となっている。そして面白いのが、ノイエ・ドイチェ・ヴェレまんまというよりは、ノイエ・ドイチェ・ヴェレを含めた80年代ニュー・ウェイヴに影響を受けているエレクトロクラッシュに近い点である。

 先日リリースされたヴィジョンズ・オブ・ツリーズのアルバムもそうだが、本作はエレクトロクラッシュ・ブームを牽引していた頃の《International Deejay Gigolo》や《Mogul Electro》から出てもおかしくない作品だ。エレクトロクラッシュといえば、ファッションと音楽は同等、いや、場合によっては音楽よりもファッション性が重視される軽薄な音楽だったし、リアルタイムで聴いていた約10年前はあまり好きになれなかったのだが、最近この手の音がふたたび増えてきている。もしかしたら、シリアスな方へと向かう音楽が多い現状に対するオルタナティヴとしての価値を、エレクトロクラッシュの軽薄さに見いだしているのかもしれない。 

(近藤真弥)

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