GREAT3「Emotion / レイディ」(EMI)

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GREAT3ー.jpg 2012年5月28日の活動再開文にまず歓喜よりも考えた人は多いと思う。そこに記された高桑圭氏の脱退、片寄明人氏の決意に満ちたテクスト、白根賢一氏の簡潔ながらも、片寄氏と白根氏の二人でGREAT3がもう一度、始まるということの意思表明。8年間で彼らの存在は音楽シーンの中で何処に今は置かれるのだろうか、は正直、読みかねるところもあるが、あくなきサウンド・トラベラーかつ孤高のオルタナティブ・ロックバンドとして切り開く世界観や音楽性には瞠目させられるものもあり、そのノマド性に信頼を置くところもあるゆえ、個人的にこの再開は待っていた。

 シカゴ音響派との共振やレイ・ハラカミとのコラボなど、日本のロック・シーンにおいてはその独自で先鋭的な歩みは確実に評価(サバービアの橋本氏など、多い。)されているが、主に歌詞に見受けられるその打ちひしがれた、ディプレッシヴな感覚やセクシュアリティの表現にどうにも、アイデンティファイ出来ないという方もいるかもしれない、どうにもニッチで何処にいても居心地が悪いような立ち位置にいるバンド―しかし、確実に音楽性は純化していきながらの沈黙。その間も個々メンバーは活発に活動をしていたが、GREAT3としてのアクションは見えなかった。

 バイオグラフィーとまでは行かないが、彼らの来歴を少し書きたいと思う。清涼なギター・ポップを軸に、後ろのめりな歌詞や失恋やメタメタながらもハイな1995年のファースト『Richmond High』、ヘビーロックから打ち込みから総てをごった煮にハイブリッドに駆け抜けた1996年の『METAL LUNCHBOX』。そして、片寄氏の疲弊した心理状態(歌詞が書けない)とそれを救うべく、他の二人がサウンド・ワークに励み、まるで日本版ハーパース・ビザール『シークレット・ライフ』のように幻惑的な世界観を提示した今でも評価の高い1997年のサード『Romance』。「日陰」から始まり光を希求するように様々な音響工作に挑んだ『WITHOUT ONION』が1998年と、日本のアーティストらしくリリース・ペースは速く、そして、確実に一作毎に深めてゆく詩情と独特の音楽性も速かった。但し、ここで初期と言おうか、GREAT3は一旦、ピリオドを打つ訳だが、自主レーベルの立ち上げ、マドンナの「Like A Virgin」のカバーを含むオルタナティヴなシングル「I.Y.O.B.S.O.S」のリリースの後の2001年の転機作『May and December』ではMIXをシカゴ音響派の雄でもあったジョン・マッケンタイアに依頼して、日本のバンドにはない質感と滑らかさと繊細なサウンド・スケープを手に入れることになる。それが、2001年の事だから如何に慧眼だったか、分かる。心の内面に深く踏み込んだ切実な歌詞の内容から最初、シングル拒否さえされた「RUBY」を含めた2002年の『When you were beauty』では、Jeff Parkerなどシカゴ勢と完全にコラボレーションして、とてもディーセントな奥行きのあるアルバムを創り上げている。ベストでのレイ・ハラカミを招聘して「Oh Baby」、「Little Jの嘆き」の2曲のセルフ・カヴァーはまた、新曲のような響きを得ていた。2003年の『climax』は80年代的なデジタルワークの中で踊ってみせた。映画、音楽家の名前をタイトルに都度、オマージュとして曲名などに入れながらも、博覧強記な音楽的な語彙をベースに切り拓く仄暗いロマンスのある世界観に魅せられていた人は少なくないだろう。

《右手に咲いた 花摘み取らないで 体を裂いた 花と罪の筏 そっと 貴方の中へ潜み 愛や希望 放っては砕いた》(「ONO」、『When you were beauty』より)

 ポップ、ギター・ロック、フォーク、ディスコ、ニューウェーヴなどいつも優雅に音の中で想像力を広めながら、基本、ずっと何らかの喪失感を歌い続けていた姿勢は他のバンドと積極的に絡む事もなく、孤高の存在だった。フェスの乱立やユニティの出来上がりとともに、彼らはバンドとしての活動を一旦、止めたタイミングなのも後付けだが、「らしい」ジャッジだったのかもしれない。

 ライヴ活動のアナウンスメントはあったが、この度、配信限定シングルとして「Emotion/レイディ」がリリースされた。8年間の不在を感じさせないギターの疾走感とともに、《揺れ動く感情なんて 上っ面》という歌詞からじわじわと《それでも この世界は美しいから》とのフレーズも刺さる紛れもない、GREAT3としてのギター・ロック。片寄氏の柔らかな歌声は凛然と現実を見詰め、白根氏のコーラスから、サーフ・ロックの要素を織り込みながら、シンプルなようで多層的でディーセントなアレンジメントにも唸らされる。

 「レイディ」はエレクトロニック・ファンク調の曲であり、セクシュアルなモティーフがテーマとして通底しながらも、飛翔感のあるサビは目映い。この2曲を聴いても、2012年の中で全くもってオルタナティヴなのが彼ららしい。大人のロックといったフレーズではない、成熟と青さを行き来する甘美な諦念と少しの前進に囲まれたもの。

 冒頭の活動再開文の片寄明人氏の一部を引用させて戴き、最後にしたいと思う。「(略)この先、新メンバーが加入するのか、それとも賢一と二人だけで続けるのか、それは今のところまだ何も言えません。決まっているのは、新しいベーシスト、そしてギターに長田進、キーボードに堀江博久を迎えた布陣でステージに立ち、9年振りとなる新作のレコーディングに入ることだけです。(略)」―失うのを恐くないと言い切り、荒れ狂った海に出るという二人のGREAT3のこれからはまたきっと険しい道かもしれないが、ここで新しく出会える人ももう一度、出会える人も素敵な気がする。

 思えば、《青い星の明かりと ハイウェイが 頼りだった "まだやり直せる" この道続くなら ステップを踏み直す様に なにもかも消えていった まだ眠くはない 君の 吐息を 盗もう》(「My Bunny Eyes」)とは、1995年の『Richmond High』の最終に入っている短くも美しい佳曲だが、まだやり直せると教えてくれた彼らは、再び舵を取る。

 

(松浦達)

 

【編集部追記】
*「Emotion/レイディ」は配信限定シングル。
*2012年8月1日、公式HPで新ベーシスト jan(ヤン)の加入が発表された。

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