【合評】FUN.『Some Nights』(Fueled By Ramen / Atlantic / Warner Music)

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FUN.jpg アリゾナのインディー・バンド、ザ・フォーマットの解散後にヴォーカルのネイト・ルイスが新しく組んだファン(Fun.)がここまでの成功を収めるとは。まずは、全米で俄かには信じられないほどの大ヒットを記録した「We Are Young」。プロムとか、ヒット・チャートのポップ・ソングばかり流れるクラブとか、あるいは学校からの帰り道に二人で歩く夜の道とか、そういうシチュエーションばかりが頭に浮かんでしまう超青春アンセムだ。ミーカ顔負けのキャッチーなアンセム、ただしミーカのような暗部はまったくなし、軽薄と言ってしまえばそれまでだが、これを全力で楽しめなくてどうするの、とわたしは思う。どんな時代であろうが、青春は永遠に青春であり続けるし、そのためのBGMはいつだって彼らのようなポップ・アクトが作り上げてきた(そして手ひどい批判を受けなりなんかする)。だが、すこし考えてみてほしい。彼らの書いている曲はとてもパーソナルな体験に基づいているように聴こえるし、ファンタジーとリアルの"とっても魅力的なあいだ"のことを歌っていて、そこに嘘はない。そういう意味ではヴァクシーンズやグループラヴとだって、共鳴し得るバンドだ。

 約1年前のアメリカのフェスの動画を観たときに、けっして多いとはいえない観客の前でネイトは声を張り上げて「We Are Young」を歌っていた。カニエ・ウェストのライヴに漂っているようなリッチな悪臭なんかぜんぜんなかったし、とても潔く爽やかで、同時に泥臭く牧歌的な光景だった。わたしは日本のポップ・アクトが青春をまったく正しく表現しないことにかなりがっかりしていた。恋愛には必ず悲哀がついてまわる。だが、その表層的な部分だけ取り上げて、結局自分のための歌しか歌わないような人ばかり日本ではレーベルと契約を結ぶ。妄想も含めて、恋愛は底なしにハッピーでアホになれるから最高なのに。そういうフィーリングを感じようと思ったら、これからはファンの『Some Nights』を聴くのがベストだと思う。「We Are Young」以外の曲もクオリティが高い(余計なヴォーカル・エフェクトとやたらに大仰なサウンドは愛嬌ということで)。何だかミュージカル映画のサントラみたいに聴こえないこともないけれど。

 こういうのを聴くと、アメリカもまだまだ元気でやってくれよな、と思う。ジメジメとした暗めのカルチャーはイギリスと日本だけで十分だ。アメリカのカラッとしたオールライトな空気がときどきは恋しくなるから。隅々まで楽しいアルバムです。是非。

(長畑宏明)

 

 

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 普段よく行く美容室(とはいっても自宅から徒歩10分の距離にあるビッグな郊外型スーパー内にある格安店だが)では、いつも洋楽が(おそらくUsenかなにかで)かかっている。でも、過去5年以上、ただの一度も知ってる曲か流れたことがなかった。

 だけど先日、ついに愛聴しているナンバーが、それも2曲もかかりやがった! ひとつは、このアルバムからのシングル・カット曲「We Are Young」。さすが全米ナンバー・ワンのパワーは違うね! というか、ここ最近、自分の好きなバンドのアルバム(愛聴盤)が全米チャートのトップ近くに来たことはよくあったけれど、シングルではなかったということにすぎない...のかもしれませんが。

 このアルバム、本国アメリカではフーエルド・バイ・ラーメンから出ている。「ラーメンによるパワー・チャージ!」ってな感じの素敵な名前を持つそれは、フォール・アウト・ボーイやパニック・アット・ザ・ディスコによって商業的にも大成功を収めてきた。さらに、このアルバム『Some Nights』には、プロデューサーとしてジェフ・バスカーがフィーチャーされている。ビヨンセやカニエ・ウェストといったヒップホップ・アーティストを手がけてきた、これまたビッグな野郎だ。

 しかしこのアルバムは、いわゆるポップ・パンクっぽくもなければ、ヒップホップっぽくもない。とりわけ後者に関しては、むしろ「ヒップホップっぽい、もしくはR&Bっぽい、はねるリズム」を丁寧に避けて制作されたようなフシがある。最初これを聴いたとき、ものすごい違和感のようなものを覚えた。ソニック的にはすごく今っぽい。古くさくは全然ない。しかし、なんとも(ジャンル的に考えると)おとしどころが見えない。よくよく聴くと、ああ、この奇妙にジャストなリズムのせいだ、と気づいた。

 中心人物ネイト・ルイスが以前やっていた、ザ・フォーマットというバンド、ものすごく大好きだったので、雑誌時代のクッキーシーンの表紙(とは言っても裏面。サイドAAの、ですが...。だけどリリー・アレンのファースト・アルバムと悩みに悩んでそっちを選んだんだよ!:笑)にしたことがある。そのとき、何度かインタヴューした結果わかったこと。ネイトは、ELOやフリートウッド・マックといった、70年代UKポップ・ロックを音楽的趣味のルーツのひとつに持っている。

 これは、ファン。(アーティスト名の英字公式表記は最後に「.」がつくので、思わず「。」をつけてしまいました。この文章においては、この形で統一させていただきます:笑)のファースト・アルバムではない。2009年に、ザ・フォーマットが契約していたインディー・レーベル、ネットワークから『Aim And Ignite』というファースト・アルバムを出している。クッキーシーンの(従来の)読者であれば、このセカンドよりそっちのほうを気に入るかも...というくらいの傑作だった。本作に比べてもうっちょっとサウンドがラフだけど、どこか匠の技が感じられる。種明かしをしてしまえば、レッド・クロスのスティーヴ・マクドナルドがプロデュースを担当していたのだ! 先述のインタヴューなどの場で、ネイトはレッド・クロスやジェリーフィッシュ、ポウジーズなど「80年代末~90年代初頭型パワー・ポップ」バンドも好きだと言っていた。本作に至る流れは、まさに「音楽ファン」以外の何者でもない流れをへていることがわかる。

 でもって、なにより肝心なのは、そのアルバムにおいて、「ザ・フォーマットはあまりなかったけれど、ファン。にある、重要な音楽的要素」が生まれていた、ということ。『Aim And Ignite』の一部を聴いたとき、非常に驚いたことを憶えている。「これ、クイーンじゃん(笑)!」と。

 でもって、先述の美容室の話に戻る。そこでかかった、ぼくの知っていた、もうひとつ曲。そのときも同じことが起こった。ビーチ・ボーイズやイーグルスというにはぎらついた感じの多重コーラス・アカペラが、あくまで今風の(内装は、それなりに)クールな空間に流れた。音質自体が今風なので、その場の空気をおかしくするようなものではなかったけれど、「おわっ、なんだっけ、このクイーンそのもの、みたいなやつ!? 絶対知ってる曲だけど...」。その直後に気づいた。あっ、そうか、このアルバムのタイトル曲「Some Nights」か!

 そして思いだした。クイーンとかELOとかの70年代UK...いや、ブリティッシュ・ロックにおける一系統は、当時「モダンなロック、もしくはポップ」と見られていた。イメージ的にSF(ファンタジー含む)に通じる部分があることもたしかなのだが、彼らのビートには黒人音楽的要素が比較的少ない。

 ブルース→ロック系の音楽を聴きなれた耳からすると、ノリ的に脆弱に感じられるというか、ときに「これは、クラシックですか?」とクレーム(?)つけたくなるくらいのビートさえあった(でも、まあ、ELOはエレクトリック・ライト・オーケストラというバンド名だから、彼らにそう言っても、それはクレイマー...みたいな...)。

 でもって、ファン。とりわけ、このセカンド・アルバムのビート感覚には、それに近いものを感じるのだ。もし、これを「モダン・ロックの復権」的な意味で、わざとやったのであれば、それはすごいな...と...。そうじゃなくても(無意識にそうなっていたとのだとしても、つい「研究」的なノリで聴いてしまうリスナーとしては)実におもしろいと思ってしまう。

 

(伊藤英嗣)

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