FOUR TET『Pink』(Text / Hostess)

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FOUR TET.jpg アラン・リクトの『Sound Art : Beyond Music,Between Categories』は今読んでも、発見が多いどころか、サウンド・アート研究の中でも特筆に値するものだと思う。2010年には邦訳書(『サウンドアート―音楽の向こう側、耳と目の間』監修:木幡和枝、訳:荏開津広、西原尚/フィルムアート社)も出ているので良ければ、参考にしてほしいが、音がそのまま聴覚的なものへ、映像が視覚的なものへと連結するのかという「当然」への疑義を呈しながら、時間軸の中で作品そのものの概念性の把握、状態性へフォーカスをあてる。この書では、ジョン・ケージ、池田亮司、サーストン・ムーア、スティーヴ・ライヒなどカテゴリーを越える多岐に渡るアーティストが取り上げられ、アートとしてのサウンドの「フレーム」を巡る考察を深めてゆくインスパイアも受ける。

 ロンドン出身のキエラン・ヘブデンのソロ・プロジェクトたるフォー・テットの00年代の駆け抜け方は鮮やかだった。元々、彼はポスト・ロック・バンドのフリッジでギタリストとして属していたのだが(注:現在は活動停止状態)、99年のフォー・テット名義でのファースト・アルバム『Dialogue』から、その実験性と先鋭的な在り方は注視を集めることになる。その後も、ジャズ・ドラマーとのセッションからブリティッシュ・フォークとエレクトロニカのエクレクティズム、フォークトロニカという音像の生成からレディオヘッド、ブロック・パーティー、エイフェックス・ツインなどのリミックス・ワーク、DJまで実に幅広く、ときに、スキゾに動き、更には、2010年の『There Is Love In You』では、ロマンティック且つビートと電子音の美しさに拘った開かれた転機作になったのも記憶に新しい。昨今では積極的にダブステップへの近接の意識とともに、ブリアルとコラボレイトし、独自のサウンド・メイクを魅せ、これまでのキャリアの来歴もさることながら、何より今時点のアクションに世界から多くの反響が寄せられるアーティストになっている。

 この度、自身主宰のレーベル《Text》からリリースされた『Pink』は前アルバム以降に12インチのヴァイナルで出されていたトラックをコンパイルし、なおかつ新曲の「Lion」、「Peace for Earth」が収められた企画、編集盤的な様相が強いが、アルバムとしての総体は進行形の熱量を保った内容になっており、アウト・オブ・ストックになっているものもあるので、ファンのみならず、フォー・テットの新作としても聴くことができると思う。性質上、これまでになくフロア・コンシャスでありながらも、ヘッド・ミュージックとしての機能性と美しさがあるのは唸らされるのと同時に、ミニマルにストイックに刻まれるビートに被せられる絶妙なウワモノ、そして、リズムの込み入り方もそうだが、叮嚀に細部まで美意識が行き届いているのは流石だといえる。

 なお、新曲に関してだが、「Lion」は淡々とした始まりからじわじわとパーカッシヴにトライバルな盛り上がりをしてゆくものの、そこにはオリエンタルな馨りよりも、いささかキュリアスなムードが漂うのも彼らしい機知が見える。「Peace For Earth」はタイトル名通りといおうか、アンビエント色の強い穏やかなトラックで電子音の粒子がドリーミーで優美な11分を越えるもの。

 この作品で感応できる反復と柔らかな差異、そこにはソニマージュ的にある種の視覚効果をもたらせながら、サウンド・アートとしての「それ」を思わせ、平面的なフレームを跨ぐ立体位相が浮かび上がる。しかし、「それ」をまた翻してくるのが彼なのだとも感じる新しい次への予感に満ちた過程作だという気がする。

 

(松浦達)

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