SIGUR ROS『Valtari』(Parlophone / Krunk / EMI)

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31x9Xi6MIrL._SL500_AA300_.jpg シガー・ロスが活動再開し、夏フェスへの来日公演も控えているという嬉しい状態のなか、まさに待望のニュー・アルバムがリリースされた。インストゥルメンタルはもはや癒しに近い感覚で幾らでも聴いていられる、異空間を創り出している類い稀なるサウンドだが、音が小さい気がした。いや、気のせいではなかった。実際、音量が小さかった。何故か? その答えはすぐに解った。ヴォーカルが異様に大きかったからだ。このバンドは果たしてレディオヘッドかビョークか!? いやいや、そんなはずはない。確かに鳴らされる音楽は異端を極めていたし、ヨンシーのヴォーカルだってそう、ポップさなど何処にもない。『残響』以前に戻ったような、それでいて進化しているような。暗いピアノも心地よい。

 ヨンシーのソロとの差別化を図りたかったのか、あるいは昨年過去の曲を多く演っているライヴ盤を出したことが影響しているのか、シガー・ロス史上でもかなり原点を見つめている言わばアヴァンギャルドな作品で、相当な実験性に富んでおり理屈では説明がつかない音が多々見受けられる。でもそれこそが本来のシガー・ロスだと思う。私たちはそれを待っていたのだ。彼らには永遠にキャッチーであってほしくないし、頭で聴くより耳で聴きたいと思うからだ。

  『Valtari』が持つ最大の魅力はオーケストレーションとアレンジにあると思われる。大胆に使っているわけでもないのに以前よりも大自然を感じさせるほど開放感に満ち溢れているのは、ヴァイオリンやヴォーカルやその他諸々の楽器の使い方にある筈だ。これを"躍動感"と言うとしたら非ロック的だけれど、あえてこの言葉を使ってみるならオルタナティヴなものである。タイトル曲「Valtari」は、悲壮感漂う幻想的なインスト曲で8分以上に及ぶ。今回短くても5分以上の8曲入りということでおよそ想像も付き易いだろうが、オープニングとエンディングがあまりに雰囲気が良すぎて物凄く引き込まれるアルバムに仕上がっている。これだけ作品を出しておきながらこの完成度には目を見張るものがあるし、いわゆる熱意や意気込みといったものが異常なまでに凝縮されてビシビシ伝わってくるトンデモナイ作品だ。

 さてこうして簡潔にまとめてみたものの、これはシガー・ロスの全作品の中で一、二を争う傑作となるだろう。"夏フェスの予習"という考えもいいが、単純に、埋もれない内にこの名盤を手に取って欲しい。あと、一つ付け加えるならこの作品はとてもとても暗いので要注意だ。

 

(吉川裕里子)

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