AOKI LASKA『It's You』(& Records)

|

AOKI LASKA.jpg  今のアオキ・ラスカを位置づけるとしたら、どこになるのだろうか。スパングル・コール・リリ・ラインのようでいて別物だ。フアナ・モリーナや畠山美由紀を思わせるところもあるが、アルバム全体を通して聴けばそれも違う。フォークトロニカやトイ・ポップ、ポスト・ロックを思わせるところもあり、彼女はファースト・フル・アルバムにして、様々な音楽性を飛び交い、どこにも位置づくことのない場所に立つことを選んだ。

 デビュー・ミニ・アルバム「About Me」と同じく、フォーク・スクワットの平松泰二がプロデュース、録音、ミックスを手掛けた本作『It's You』。ここには飛び跳ねることなく、めいっぱい笑顔を見せるでもなく、今の自分と向き合っている歌がある。とても自然に自由に歌をうたう喜びを噛みしめながら、自分を存分に表現する歌。そこには邪気も無邪気も何もない。素直という言葉が最も適している歌声をシンガー・ソングライター、アオキ・ラスカは謳歌する。顔と首にペイントしたジャケットにあるように。その素直で透明感のある歌声には曇り空を吹き飛ばす力があり、強い雨に打たれてもかまわないという言葉が聞こえてきそうだ。

 その強さは彼女の不遇の時期が反映されているのかもしれない。彼女には、自主制作でCDをリリースしたが、反応は芳しくなく、音楽やり続ける気力をなくした時期があった。当時を振り返り彼女は言う。「音楽がなくなったらどれだけ毎日楽しいだろうと思ってた。歌うことがつらくて。」(ライナーノートより)。しかし、アオキ・ラスカはそんな時期を乗り越えた。どん底の状態だった5年前に作った曲「流れる」が本作のラストに収録されているのは、自分の過去を潔く受け入れているということなのだろう。実際に「流れる」での繊細さと強さ、そしてわずかな刺を持つ歌声とメロディはしなやかに辺り一面に広がっていく。楽曲構築に関してもミニ・アルバム「About Me」よりも空間の広がりがあり、ピアノの調べの美しさはそのままに音数も増え、しかしそれらは歌声を邪魔せず、アオキ・ラスカがステージの真ん中で堂々と歌う姿が目に浮かぶ。

 本作には鼓膜を穏やかに揺らす歌はない。あまりにもあっさりと刺激する。例えば「物語」での無音の寂しさと遊園地にまぎれ込んでしまったような音世界の右往左往を優美に聴かせる音の鳴りと歌。「ひとつになりたい」での朗らかな歌声と、ふと、ひるがえる、泣いているような歌声。彼女の闇と光の部分が交差し合い、時として触れればすぐさま崩れてしまうような危うさ。だが崩れない強さ。音世界にすっと聴き手を吸い込む神秘的な音の鳴り。そして闇と光のある歌詞。闇がないところに光は宿らず、光を照らせば影が生まれる。こころの影が。アオキ・ラスカの歌詞世界のそういったところに魅力を感じる。

《きてみて/特別なきみがみえる、よ/まちがいだらけで立ってる/ずっと/それでもいいから/うたおう/ずっと/もう、いいよ/さあ、行こう/さあ》(「みてみて」)
《言えない言葉わかって/知っていいよ/好きなだけ》(「Kiseki」)

 僕らはアオキ・ラスカを知るのが遅すぎたのかもしれない。でもこれからきっと彼女と多くの人が出会うだろう。

 希望的なものと哀しさの同居。光と影。それらは歌声にも表れている。感覚を大切にする彼女は、本作で歌の巧さより感情を重視した。その歌はささくれ立ったものだ。ここにあるのはアオキ・ラスカの感情という闇をまとったファルセットによるディストーションであり、自身の感情の暗部を見詰めたがゆえに見付けた光がある。その音はたとえ些細なものだったとしても、あまりにも眩しく輝いている。その輝きは何なのか。自分自身の声が「あなた」に届いてほしいと願う彼女の歌声を聴けば、"It's You"、それが答えとして響き渡る。そうして僕らは本作に内在する、静かに染み入ってくる影の存在に気付かされる。それはいたく沁みる。

 

(田中喬史)

retweet