LUKE ROBERTS『The Iron Gates At Throop And Newport』(Thrill Jockey)

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LUKE ROBERTS.jpg 「ここではないどこか」へ聴き手を導く音楽を求める、待ちの姿勢は肯定されてもいいと思う一方、「ここにしかない何か」という、普段は見えていなかったことに気付かされる音楽を積極的に掴みに行く姿勢があってもいい。サーストン・ムーアとも交流を持つ、ナッシュビル出身、現在はブルックリン在住のシンガー・ソングライター、ルーク・ロバーツのセカンド・アルバムとなる本作『The Iron Gates At Throop And Newport』は、聴き手にとって「ここにしかない何か」に気付かされるものとしてある。

 誰もいない夕暮れ時の草原で、たった独り、ギターを弾きながら歌っている姿が目に浮かぶルーク・ロバーツのカントリー/フォーク・ミュージックは、静寂の中に潜んでいる大切な音を見付けだし、鳴らしているかのようだ。寂しさに溢れているが下を向いている音はなく、ハーモニカや女性コーラス、ピアノの調べが楽曲をわずかに彩り、冷たい空気をゆっくりと温めていく気配に満ちている。前作『Big Bells And Dime Songs』はバンド・サウンドを程よく強調した、本作と比べればフィジカルで重心を低く保った楽曲が多くを占めていた。しかし、この作品ではストリングスを取り入れているものの、シンプルに自分の声を届けようという姿勢がある。それゆえ、前作以上に人間味に満ちた飾らないルーク・ロバーツがここにはいる。特に「Second Place Blues」の静謐な奏では素晴らしく、か細くとも芯のある歌声と、鳴らされる音の一つひとつには彼の心情が刻印されていて、聴き手は自分の為だけに彼は歌っているという錯覚すら感じるかもしれない。

 そんな普遍性が宿っている本作が胸の深くまで染みわたるのは、彼の実体験にもとづく、家族や信頼というものは儚く、崩れる時はすぐさま崩れてしまう、あまりにも脆いものだということをひとつのテーマとして歌っているからだろう。そして、彼は付け加える。「あまりに脆くとも、家族や信頼とは、とても尊いものだ」と。尊いものの儚さ。それを繊細に、感情の震えとともに歌っているからこそ、ルーク・ロバーツの歌声は聴き手に響くのだ。真摯に温かさと哀しさを語りかけてくる音の数々は、「ここではないどこか」を鳴らさず、「ここにある大切なこと」を鳴らす。前作で自己を見詰めた末にたどり着いたのが本作だ。ニール・ヤングの『Harvest』やロン・セクスミスが好きな方には深く感じるものがあると思う。

 本当の意味で家族や信頼を大切にすることとは何なのかを訴えかけてくるこの作品は、ルーク・ロバーツが自分自身と向き合い、気持ちのもつれから生み出したものと言っていい。その苦悩を通過して彼が手に入れた音の鳴りには痛いほどの説得力がある。

 

(田中喬史)

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