JACK WHITE『Blunderbuss』(Third Man / Sony Music)

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JACK WHITE.jpg 昨年秋にiTunes Music Store限定でリリースされた、U2『Achtung Baby』のカヴァー・アルバム『AHK-toong BAY-bi Covered』のラストを強烈な「Love Is Blindness」で締めくくったジャック・ホワイト。そこには、燃え盛る炎のようなリフと叫びがあった。それはU2の描いた耽美的ともいえる世界観(自分対世界)とは違って、あくまでも個(自分自身)から発せられる叫びそのもの。「U2の曲だから...」と躊躇する気配は微塵もなく、楽曲だけに対峙するジャックの姿勢が垣間見える。鳴らされたのは、やはり壮絶なブルースだった。レコーディングは、ジャックが拠点とするナッシュビルのサード・マン・スタジオ。オルガンとヴォーカルをジャックが担当。ドラマー(Ben Blackwell)とアコギ兼ベース・プレーヤー(Kevin Childress)を加えた3人で演奏されている。これが来るべきジャックのソロ・アルバムの伏線になるのかもしれない。僕はそう思っていた。

 それから数ヶ月後、こうして"ジャック・ホワイト"として初のアルバムが届けられた。すでにいくつものメディアでジャック自身の言葉で語られているとおり、そして先日のソロ・ライヴのストリーミング中継でも全貌が明らかになったとおり、レコーディングには男性バンド/女性バンドを編成するというユニークな手法が取られている。先述の「Love Is Blindness」をカヴァーした時のシンプルなユニットではなく、ジャックならではの(ちょっと面倒くさい:笑)アイデアが活かされている。男性バンドと女性バンド、それぞれが同じ曲のレコーディングを行い、ベストだと感じたテイクを採用したとのこと。アルバム・タイトルの『Blunderbuss』は、17~18世紀に使われていた"ラッパ銃"のことで、その名のとおり銃口がラッパのような形状になっている。命中精度は大したことないけれども、複数の弾丸を仕込んだり、弾丸の代わりに石や木片も撃てた(!)らしい。ラッパ銃を愛用していたのは中世の海賊だった。そして、このアルバムでジャックが選んだキー・カラーは青。ホワイト・ストライプスの赤と白、ラカンターズの銅、デッド・ウェザーの白に続くキー・カラー設定がいかにもジャックらしい。楽器(ラッパ)のようにも見える武器、がらくたを詰め込んで発射できる機能。そんなブランダーバスを抱えてジャックが突き進む海の色、そして叫びにも囁きにも似た歌声(ブルース)。ジャックの本質がむき出しになる1stソロ・アルバムには、やはり"青"がふさわしい。

 アルバムは不穏なローズ・ピアノの三連符で幕を開ける。《みんな俺の欠片を奪ってゆく》と歌われる「Missing Pieces」は、ホワイト・ストライプスともラカンターズともデッド・ウェザーとも異なる印象。続く「Sixteen Saltines」では、ストライプスのファンを熱狂させる重厚なギター・リフがいきなり炸裂! 3曲目の「Freedom At 21」も、モダンなシャッフル・ビートにジャックのギターが絡みつく。けれどもストライプスを思い出させるのは数曲だけ。猛り狂うエレクトリック・ギターは、ほぼ封印されている。同じく、ジャックのプレイ・スタイルを象徴していたオープン・チューニングでのスライド・ギターも聞こえない。その代わりにアルバムを彩るのは、ペダル・スティールやフィドル(ヴァイオリン)、マンドリンのやさしい音色。そして、ピアノやアコースティック・ギターの豊かなメロディだ。女性ヴォーカリスト、ルビー・アマンフ(Ruby Amanfu)とのデュエットで歪んだ愛のかたちを歌う「Love Interruption」、タイトル・トラック「Blunderbuss」での緩やかな曲調に耳を奪われる。今までのようにバンド名義ではないことに最初は不慣れな感じがしていたけれども、アルバム前半だけを聴いただけで"ジャック・ホワイト"という個性をはっきりと感じられる。それは想像以上のインパクトだ。

 ブルース、フォーク、R&B(50年代に活躍したシンガー、リトル・ウィリー・ジョンのカヴァー「I'm Shakin'」も最高!)、カントリーなど多彩なエッセンスを吸収した楽曲は、ローリング・ストーンズの『Exile On Main St. (メイン・ストリートのならず者)』を彷彿とさせる。けれども、それは偶然の相似でしかないだろう。ストライプスでのミニマムなスタイルとブルースへの激情、ラカンターズでのバンド・メンバーとのコラボレーション、デッド・ウェザーでの女性ヴォーカルとのハーモニーなど、今までのジャックが挑戦したすべてのアプローチが活かされている。そして、ストライプスの解散と女優カレン・エレルソンとの離婚を経た後だからなのか、ほとんどの楽曲で(失われた)愛が歌われている。だからこそ、このアルバムはボーナス・トラックとして「Love Is Blindness」が収録されている国内盤がおすすめ。決して蛇足ではなく、ひとつの循環を成しているから。

 60年代のボブ・ディラン、70年代のデヴィッド・ボウイ、80年代のプリンス、そして90年代のベック(待望の新曲「I Started Hating Some People Today」は、ジャックとのコラボで〈Third Man Records〉からリリース!)と並ぶソロ・アーティスト、ジャック・ホワイトの誕生だ。ジャックは古ぼけたラッパ銃を磨いて精度を上げる。すべてをぶち込んで弾丸のように発射する。青を纏いながら、ためらうことなく荒れた海を行く。さあ、フジロックでの来日公演はもうすぐだ!

 

(犬飼一郎)

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