H MOUNTAINS「Sea」(Self Released)

H MOUNTAINS.jpg 去年発表されたシングル「Sun」とともに、同じくシングルである本作「Sea」を手に取った方は幸運だと思う。とびきりひねくれたサウンドが好きな方なら、幸せは倍になる。

 来来来チームとともに指揮を取り、今年1月に行なわれたイベント《とんちんかんマンデー》を成功させた東京を拠点に活動する5人組のインディー・ロック・バンド、H・マウンテンズ。この音の核にあるのは可能性だ。彼らの音楽にはマニュアルは存在しない。音楽に正解など設定せずして、可能性の中に飛び込んだ末に掴んだ音をひたすらにステップさせる。その様はポピュラー・ミュージックの中にあって、異質な捻じれを聴き手の神経網の隅々にまで行き渡らせる。そうして僕らの耳を瞬時に奪う。こましゃくれた表情など一切なく、妙なアングラの匂いも全く無い。楽曲の整合性を突き破るかのごとくのポスト・パンクの香りが漂う本作は、ロック・ミュージックの痺れと歪みを奏で、かつ、ロックという表現の上に行儀よく座らず、遊び心を忘れずポップに鳴らす。いや、もはや行儀よく座る必要もないのだろう。それゆえに僕は、このバンドにロック・ミュージックの未来を、つまり可能性を見たい。H・マウンテンズとはそう思わせるバンドなのだ。

 過剰にファンキーになることを避けたギター・サウンドの捻じれ具合が知恵の輪のように絡まり、へヴィーなリフがディストーションとして怒涛に迫る。その音の中に身を置けば、僕らのエゴなど簡単に消されてしまう。摩擦がいくら生じても決して滑らかにはならないギター・サウンドのフレーズの数々が、僕らがそれまで漠然と正当だと思っていたバランスを気持ちいいほど突き破っていく。ギターと流れるようなメロディ、浮遊感のある歌声、跳ねるリズムが交わって、教科書には絶対に載らないポップ感が生まれるという、音楽のひとつの可能性を彼らはあっけらかんと鳴らしてしまう。しかもスポーティーに。

 そういったポップ感と遺脱性を持つ、このバンドのメンタリティのひとつとして、歴史的側面を抜いたうえでのパンクへの視点があるんじゃないかと思う。かつて町田康が言ったように、一度裸になること。伝統性への否定。自分たちがやろうとしていることへの自信。同時に自分を疑う姿勢。実験。それらがH・マウンテンズのオルタナティヴな音を浮き上がらせている気がしてならない。もしかしてオルタナティヴとは、裸になって初めて現れるものではないかと思わせる作品だ。

 ラストに、狩生健志をゲストに迎えたヒューイ・ルイス&ザ・ニュースのカヴァー「Couple Of Days Off」を収録しているのは興味深い。00年代が情報を選ぶ時代だったとするならば、10年代は情報を並列に汲み取る時代だという意思が意識的になのか、無意識的になのか、H・マウンテンズにはあるのだろう。裸になったうえで、伝統を拡大して評価せず、リアルタイムの音楽と同様に、すぐ傍にあるもの認識する世代の音があるのだ。それらが彼らのポテンシャルを広くし、鳴らされる音にはこの先があるのだと感じさせる。ゆくゆく発表されるであろうアルバムに期待しても絶対に損はない。

 

(田中喬史)

 

【編集部注】ライヴ会場とディスクユニオンにて販売中。

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