メレンゲ『ミュージックシーン』(Warner Music)

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MERENGUE.jpg 前作にあたる、ミニ・アルバム「アポリア」において、夕暮れの海沿いの世界を睥睨してきたメレンゲ。当初、現在のヴォーカル・ギターであるフロントマン、クボケンジのソロユニットとしてミニアルバム『ギンガ』でインディー・デビューを飾ってから10年が経ち、10周年の区切りとしての象徴的な作品ともなり得るのが本作、『ミュージックシーン』である。

 クボを始めリズム隊のタケシタツヨシ(ベース)ならびにヤマザキタケシ(ドラムス)の従来通りのメレンゲの布陣に、ツアーサポートメンバーとなった元くるりのギタリスト、大村達身と前作から同じくキーボーディストの皆川真人をアディショナル・プレイヤーとして招かれて制作された、堂々たるタイトルが輝かしい『ミュージックシーン』は、僕自身の結論から述べると、前作から見えてきた「夜のメレンゲ」としての現時点での最頂点と言って一切の差し支えがないとの断言も辞さない。

 前作、『アポリア』のレビューにおいても述べたが、相変わらず、CDを取り出す前からジャケットを手に取った時点で、その独特の世界観が秀逸に表されている。まるで、(『シンメトリー』のジャケットのような)夕方の海から帰ってきた二人を乗せて都市に戻っていくかのようなバスと夜景の対比がメレンゲの新たな世界を映し出しているようで、感傷的である。

 サウンド面では『アポリア』で、今までのリスナーからすれば少々実験的とも思えた試行錯誤の跡が、『初恋サンセット』や『シンメトリー』のような彼らのお得意のセンチメンタルなメロディと上手く調和させることに見事に成功している。タイトル・トラックの「ミュージックシーン」で緩やかな幕を明けるアルバムは、「バンドワゴン」のシンセサイザーと実直なリズム隊のアンサンブルで打ち鳴らされる不確かな期待、前作から続くファンクの要素が垣間見える「フィナーレ」、国内のギター・ポップ界の盟友、ゴーイング・アンダー・グラウンドの松本素生と共作されたというギター・ポップ直球の「給水塔」、「バスを待っている僕ら」や「予報通りに晴れた空」でも聴かれた小気味良いシンセサイザーのリフがくすぐったい「ビスケット」などを経て、強がっているような歌詞を後押しするようなおどけた曲調が切なさを一層に倍増させる「物持ち」で終わるまで、これまでのメレンゲのエッセンスと前作からの新たな試みが融合している様にただただ驚かされるばかりだ。

 最早、メレンゲはギター・ロック・バンドという括りでは見ることは不可能であるとも言えるだろうが、それでもやはり、他のバンドの追随を決して許さないような圧倒的なメロディ・センスから賞賛の意をもって、やはりメレンゲはギター・ロック・バンドであるのだと再確認できるようだ。

 歌詞面では、前作よりさらに彼らの基調であった「海沿い」の感覚が薄れている。それは、先にも述べたようにジャケットが示しているように海を後にして都市に戻ってきている彼らの現在のモードを映し出しているのかも知れない。

 サウンド面同様に、歌詞面でも驚かされる点がある。それは、《いつだって精一杯笑う君に恋をしたあの夏の日》(「クラシック」)から《君を愛したせいで嫌いになった誰かの裸ばっか覚えてる》(「hole」)まで、彼らの従来の甘酸っぱい優しげな一節から、あえて醜いと思わせるような言葉さえ使っている一節の明暗の幅が非常に広い点である。

 そのなかでも、リード・トラックである「まぶしい朝」の歌詞は、その感傷的なサウンドとともに、「君が去ってしまった僕」に残された欲望、哀愁、期待、鬱屈といった人間的な感情が渦巻いており、哲学的な感覚さえ覚え、『アポリア』(レビューでも書かせていただいたようにギリシア語で「困惑」の意)という言葉はこの曲に凝縮されているのではないかとさえ思える圧倒的な名曲である。

 また今作では『アポリア』で収録の機を逃していたことを惜しまれた、クボが新垣結衣に作曲を提供した「うつし絵」も収録されている。この曲だけは作詞にクボは携わっていないが、それを除いても、今作では今までのどの作品よりも明らかにクボは自分の心の奥を曝け出すように詞を綴っていると言えるだろう。そして、それは、メレンゲが海沿いの景色を離れ、虚飾の光を取り払ったこととリンクしてからであると言えるのではないだろうか。

 『アポリア』のレビューにおいて、メレンゲはネクスト・ステップに歩み出していると書いていたが、まさかここまでの早さで新たな境地の完成形に達するとは正直に言って、想像していなかった。
改めて、断言しよう。メレンゲはこの作品において「夜の世界」の極地を歌い切っており、それは彼らが現在、邦楽ロック・シーンで改めて最も注目されるべきアーティストであることの一つの証明を成していると言える。

 是非、あなたも夕方の海沿いの景色を後にして、今の恋や昔身近にあった恋、現在や過去の自分自身やあなたの隣にいる人、隣にいたであっただろうはずの人、その関係に照らされる刹那とも思える世界、その眩しさや郷愁に身を委ねて聴いてみてほしい。きっと彼らが映し出す優しさと残酷な夜の世界に引きずり込まれることだろう。

 『ミュージックシーン』、10周年を迎えた「夜のメレンゲ」が打ち鳴らす名作だ。

 

(青野圭祐)

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