VARIOUS ARTISTS『Cue Fanfare! (Greenwich Trailer Vol.1)』(Greenwich Records)

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V.A. CUE FANFARE.jpg 昨年2011年の11月に津田真氏が代表/プロデューサーとなって立ち上げられたレーベル《Greenwich Records》。その最初の挨拶にあたって、彼は「まだ多くのひとに知られることのない、けれど、多くのひとに聞かれるに値する優れた音楽を拾い上げ、音楽と作り手に作品的にも金銭的にも正当な評価を与えたい、と考えている」との旨を記している(参考:Greenwich Express)。音楽をあくまでジャンルではなく、質で捉えることをモットーと置いている。

 しかし、言わずもがな、この時代にこういった覚悟は相当なものが要るのは察するには余りある。個人的にも、まだ無名にも関わらず、クオリティの高い音楽を呈示していると思えるアーティストが居ても、経済的与件や真っ当な評価軸に挙げられず、ましてや、フィジカルCDとして店頭に並ぶのも難しい事実を見聞きし、ライヴ活動も含めると、峻厳なリアリティを垣間見るのも少なくない。また、現今の高度な配信文化、フリーミアムのフォームが整っていても、所謂、紹介の文脈、広告の問題、幾つもの障壁が重なり、レーベルとして機能してゆくのがやっと、というケースもある。

 この度、ブログでは少しずつ発表されていたが、《Greenwich Records》からの最初となる作品が届けられた。コンピレーション形式であり、津田氏自身がライヴに通う中で出会い、更にそれを紹介すべきだという価値の下でジャッジされたアーティストや作品が並んでいる。基本、会場での手売りや既発はあれども、全国発売という形では初出である。以下、簡単にだが、説明していきたいと思う。

 1曲目の小春はチャラン・ポ・ランタンでもお馴染みかもしれない、様々な場所でアコーディオン奏者として活躍する気鋭であり、この「三毛猫は左利き」という曲名のインビテーション・カードは1分45秒の軽快な響きを残す。そこから、2曲目は鋭角的なギターイントロに繋がる。個人的にthe band apartやACIDMAN辺りの締まった音を彷彿させもしたが、歌詞やコード進行にはまだ若さと青さも滲むhalnoteという男性四人組の「白と現」。3曲目は、タトラという仙台在住の4人組の「恋の直行便」。ポップなのにどことなく歌詞の捩れ方と肩の力の抜け方といい、踊ってばかりの国辺りの持つキュリアスなムードと近似しながらも、サーカズムよりも優しさが先立つ。

 4曲目からは比較的、穏やかな曲が並ぶ。中田真由美の「ミタイ」。朴訥としながらも、ギター一本で揺れる歌声は、青葉市子の醸す静謐を巡り、空気公団の山崎ゆかりの持つ、澄んだ淡さがある。そこに宮沢賢治のような詩世界がのってくる。続いての5曲目の原名蕗子「みるく」も中田真由美とも親交が深いとのことで、共通点も感じる。それでも、小島麻由美や矢野顕子を思わせる「クセ」がある。6曲目の樋口舞「陽だまり」は昨年、2011年に惜しくも解散した歌姫楽団のソロ。やはり彼女の声そのものの持つ艶めかしさはソロとしても、今後、より切り拓いてゆく地平があるのではないか、と思う。

 一転、7曲目は全員10代にして結成も2011年という、おはようメルシーというバンドの「ください」。正直、演奏はまだまだ拙く、ボーカルも声量があるとはいえないが、得も言われぬ《お願い 少しだけ 少しだけヒントをください》という叫びのエコーには未熟さよりも、スタジオでセッションをする今を生きるバンドメンの日常のラフさ(生々しさ)が照射される。8曲目、今宿えみこ「かさは あか」はサポート・ピアニストの有澤かなを招いての叙情的な曲。ローラ・ニーロ・タイプというよりはキャロル・キングのような安定した歌唱と美しさも含みながらも、ふと《太陽にいまは会えなくても また笑えるわ》などのフレーズの情感溢れるところは胸を打つ。

 チープな電子音とロー・ファイなトイ・ポップの9曲目の女性四人組xpocs(エックスポックス)の「ねむりひめ」の持つ感覚は好きな人は好きかもしれない。10曲目、163(g)(ひろみ)は、2曲目に収録されているhalnoteの第五のメンバーともいわれるベッド・ルーム・シンガーソングライターにて浄土真宗の僧侶。初期の三枚のマキシ・シングルを出していた頃の七尾旅人氏や徳永憲氏を思わせる危うさと折れそうな声に、柔和な電子音の風がそよぐ。11曲目のギタリスト、高橋ピエールが参加したdulce aereo(空気飴)の「glimps of light」は反復するリズムと、味わいのあるギター、言葉がじわじわと染み込む佳曲。

 さて、ガールズ・ポップ・デュオのMiyuMiyuの12曲目「悲しみの林檎」まで来ると、今回のコンピレーションに通底する景色が分かってくる。それぞれの個性がしっかりありながらも、ナチュラルに音楽を奏でようとする姿勢と、その音楽が空気を振動させ、リスナーの「向こう側」を想っている-そんな、寓話性と言おうか。津田氏は「架空の映画のサウンド・トラック」という形容もしているが、叮嚀にそれぞれのアーティストの息遣いまで数えている間に、静けさが滲む。まるで、ボードレールのいう「ただあり、秩序と美と、奢り、靜かさ、快樂と。」だ。

 13曲目の夜の夢「4符」はアングラ的な風情を持ったギター/ヴォーカルの山田と、ドラムス新林のデュオ。14曲目、telescope「Voyager」は洗練したダンス・チューンでおそらく、このコンピレーションの中では一番、キャッチーと形容してもいいかもしれない。DJ、ソロ・アーティスト、コンポーザーの芳川よしのと20歳のフィメール・シンガー「カリソ」と組み、煌びやかな音空間を拡げる。といえども、昨今、隆盛の中田ヤスタカ・ワーク的な過剰さはなく、人肌と原石の予感を感じさせるところが「らしい」。15曲目、たらりらん「たいむかぷせる」はバンドとして或る程度、一つの結晶の仕方を見せているだけに、これからはどういった化け方をするのか、興味深い。16曲目の矢野あいみの「ブルーバード」は《答えはその胸に宿るよ》、《大切な場所から逃げ出すときが来ても》、その先に曲名通り、メタファーとしての青い鳥を求めるようなピアノと彼女の声だけでひそやかな昂揚と寂寞が紡がれる凛とした曲。ラストはガールズ・デュオ、恋のパイナップルの「ハニカミヤハニイ」の不思議な世界観を保った余韻で終わる。

 駆け足で、17曲を紹介したが、それぞれがMy SpaceやTwitter、HPを持っていたり、独自の活動を行なっているので、もしも、このコンピレーション、参考までに末尾に貼ったYouTube沿いに気になったアーティストがあったのならば、深く掘り下げてみるのもいいかもしれない。全体を通じてアコースティカルな曲とフィメール・アーティストが多目に揃っているが、その先にはまた、違った横顔を見られることだろうし、何より、まずはここへの「導路」を描くために津田氏はこの『Cue Fanfare!』を編み上げたのだとも思う。知らないでいることも、知っている、愛好しているアーティストをより掘り下げてゆくことも大事な行為だと思う。ただ、音楽は決まったカテゴリーを跨ぎ、様々な人たちが様々な美学や意識、想いを提げて、奏でるものであり、眠らせてしまうには勿体ないことも多いのも事実だろう。最後に、故・武満徹氏の言葉を借りたい。

「私は、音楽が社会変革をたすける力になるであろうなどというようなことを考えているわけではない。音楽の無力を知った上で、私は、など、それを捨てることはできない。」
(『樹の鏡、草原の鏡』新潮社より)

世界が沈黙してしまう夜を避けるために、新しくこうした息吹が宿ってくること。それをこれからも逃さないでいる必要性もますます感じる。

 

(松浦達)

 

【参考:公式ダイジェスト・クリップ パート1&2】
Cue Fanfare! - V.A. / Digest Video Clip 01
Cue Fanfare! - V.A. / Digest Video Clip 02

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