VARIOUS ARTISTS『Ç86』(Self Released)

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Yosuke_Yamaguchi_cover_art.jpg 『Ç86』と聞いてピンと来た方もいるだろう。このタイトル、ギタポの教典として今もなお語り継がれているコンピ『C86』から拝借したものだ。とはいえ、収録されているのはまんま1984~86年頃の音楽ではなく、チルウェイヴを通過したポップ・ミュージックであるのは強調しておきたい。他にもオカルト・ユー(タクワミの変名)「Y」、ウーマン・イン・ザ・デューン「Eats (Sending Out An SOS)」は昨今盛り上がりを見せるニュー・ディスコ/バレアリックに通じるインディー・ダンスだし、アルバム後半にはイル・デイズ「Hallucinatory Soap Bubbles(Lo-Fi Ill Mix ver.)」、エクスコウ「17」といったエクスペリメンタルなエレクトロニカもあり、実に様々な楽曲が収録されている。そしてエクスコウはなんと、マッドエッグの変名である。「17」はローな音像が耳に残るマッドなシンセウェイヴなんだけど、マッドという意味では、「17」こそマッドエッグの名にふさわしい気もするが・・・。それはともかく、本作には最先端のインディー・ミュージックが収録されているということだ。

 でも『Ç86』と銘打っているだけあって、当時のリアルタイマーを揺さぶる要素もある。本作を企画した首謀者モスクワ・クラブの「Our Pastime」はニュー・オーダーを想起させるメロディー・ラインが特徴的で、スロウマリコ(名前の由来はスロウダイヴでしょうか?)「Dolly Almost Touched You」なんて、もろジーザス・アンド・メリーチェインだ(ただこの曲に関しては、元ネタを知らずにそうなってしまった感もある)。さらにはジョイ・ディヴィジョンの影がちらついてしょうがないフィギュア「Given」なんてのもあったりする。本来バンドを引き合いに出して例えるのは好きじゃないが、そんな筆者を引き合い魔にしてしまうくらい"元ネタ"と呼べるものがたくさんあり、言及せずにはいられなかった。おまけに『C86』収録曲のカヴァーまでついてくるし、首謀者モスクワ・クラブと、本作を企画するにあたって参謀に近い働きをしたエレン・ネヴァー・スリープスは、C86時代の音楽(そしてC86世代に影響を与えた音楽)に特別な思い入れがありそうだ。

 ちなみに本作は東京、千葉、神奈川、愛知、大阪、鳥取、京都、福岡、北海道を拠点とするバンド/アーティストが参加している。ここまでバラバラだと単なる寄せ集めになりそうなものだが、不思議と本作には一体感に近い熱気がある。そして何より、自由気ままに音楽を楽しむ者が集まったことによる賑やかさ! この熱気と賑やかさは、送り手と聴き手の間でインタラクティブを確保するのがイージーになった"今"を祝っているかのようである。そんな本作は、音楽の在り方の変化を世に示す声明であり、未来へ向けたブループリントになりえる。てのは、筆者の考えすぎ? だが、商業化に走り過ぎたメジャーに対するアンチ・キャンペーンの一環として生まれた側面もあるのが、本家『C86』である。そして音楽産業の限界が叫ばれる今、その『C86』の名を拝借したコンピが生まれたのは果たして偶然なのか。まあ、考え過ぎてこじつけるのは僕の悪い癖。でも、こうして存在してしまっているという事実に、筆者は真理を見出してしまうのである。

 

(近藤真弥)

 

※本作はリンク先からダウンロードできます。

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