SALIM NOURALLAH『Hit Parade』(Tapete)

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SALIM NOURALLAH『Hit Parade』.jpg また《Tapete Records》の新譜がクリーンヒットしてしまった。テキサスの草食系SSW、サリム・ノウララーによる4枚目のフル・アルバムである。元々はノウララー・ブラザーズというユニットで兄のファリスと活動をしていたサリムだが、パニック障害を患ってしまった兄が、よりエクスペリメンタルな創作意欲を自宅スタジオで爆発させている傍ら、自身はアコギを片手に、古き良きグッド・ミュージックへの到達を目標として掲げている背景がある。生活面では支え合いながらも、お互いのソロ・プロジェクトが活性化することで、ノウララー・ブラザーズからの発展性が徐々に色濃くなっている。その濃度も本盤で最高点に達しており、「2004年から始めたソロ活動キャリアの集大成」と本人が自賛するほど、強い確信を得ているようだ。

 前作までとは比べ物にならないほど多角的で全時代的だ。60年代のクラシカルなロックン・ロールをベースとした楽曲もあれば、乱れ打ちの16分ハイハットとギターのリフで踊らせるポスト・パンク直系の楽曲もある。日本国内ではエリオット・スミスやベル・アンド・セバスチャンなどが共通言語として挙げられているが、それも頷けるタイムレスなメロディだ。本人はビートルズの『The Beatles』(通称"ホワイト・アルバム")、キンクスの『The Kinks Are The Village Green Preservation Society』、クラッシュの『London Calling』の3枚を一つの到達地点として掲げているが、ただの懐古主義という訳でもない。国や時代の境を越え、テキサスはダラスから、ベルリンのレーベルへ移転して音源を発信するというのは感慨深い。ライヴ映像は、いわゆるアメトラ的な出で立ちでクールにアコギを掻き鳴らすサリムの姿ばかりが残っているが、深みが増した今、ライヴの編成や手法は変わっていくに違いない。

 全14曲という長さから生まれる冗長さが全く感じられない。一曲目の「38 Rue De Sevigne」では、爪弾くアコースティック・ギターが繊細なイントロから始まり、混声のコーラスではっとリスナーの目を醒まさせる。勢いを加速させて、ロケンローのリズムに突入していく展開が本当にかっこ良い。タイトル曲の「Hit Parade」は気だるげなサリムの吐息と共に、シンプルなビートとミニマルなリリックが繰り返され、《Used be my life was a hit parade》という一文が、本盤のコンセプトをよく象徴していると思う。二度目のイントロダクションの次曲である「Friends For Life」では、敢えてそれまでのテンションを抑えた弾き語りの曲を挟むことで、丁寧に緩急をつけている。10曲目の「The Quitter」から、テキサスの荒涼とした大地に燃える夕焼けを想起させるメランコリックな楽曲が並び、ゆったりとした気持ちでアルバムの終わりを迎えられる。

 バンド編成でレコーディングをしたことは、これが初めての経験だったそうで、メンバーにはジ・アップルズ・イン・ステレオにも参加しているジョン・ダフィーロやかねてからのレコーディング仲間であるジョー・レイエスなどがおり、クレジット内にはスプーンやホワイト・ラビッツなど多くのアーティストを手掛けるジム・ヴォレンティーニの名も頻出している。構想も2009年のヨーロッパ・ツアーを終えた後の、テキサスへ戻る飛行機の中から始まっていたそうで、彼の自信も納得できるプロダクションの緻密さである。かっこ良過ぎて笑うしかない、という状況に久し振りに陥った。地味だし、評価もあまりされていないアーティストだが、とにかく気合いの入った一枚であることは間違いない。

 

(楓屋)

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