PAUL WELLER『Sonik Kicks』(Island / Yep Roc / Universal)

|

PAUL WELLER.jpg 国家に向かって「目を覚ましやがれ!」と楯突いた前作『Wake Up The Nation』から約2年。ソロとしては11枚目、ザ・ジャムとスタイル・カウンシルを含めると通算22枚目となるポール・ウェラーの最新作『Sonik Kicks』がリリースされた。短く刈り込んだ精悍なヘア・スタイル、ダブルのスーツにタイ。相変わらずスタイリッシュにキメているモッド・ファーザーの姿が麗しいジャケットには"PAUL WELLER"の記名はなく、アルバム・タイトルだけがシンプルなフォントでレイアウトされている。「見りゃ、誰だかわかるだろ!」ということなのかな。クールな佇まいはチューブウェイ・アーミーのゲイリー・ニューマンみたい。そして、ハレーションを起こしたネオン管が交差する近未来空間は、クラフトワークのステージ・デザインを思わせる。

 90年代中期、ブリット・ポップの狂騒の中でも、ポール・ウェラーがオアシスやブラーをはじめとする当時のバンド / ミュージシャンから多大なリスペクトを集めていたことは、ファンのみんなが知っているとおり。でも、彼が本当にカッコ良かったのは、ファンやミュージシャンのそんな思いに甘んじることなく、そんな思いのさらに上を行く素晴らしいアルバムをリリースし続けたことにある。『Wild Wood』に収録された「The Weaver」のタイトでヒリヒリするようなテンション。全英No.1に輝いた『Stanley Road』には「Broken Stones」のように優しいフィーリングのR&Bもある。そして『Heavy Soul』の猥雑なロックンロール「Peacock Suit」は、今でも僕たちを踊らせる。ブリット・ポップがとっくに過去のものとなった2012年、この『Sonik Kicks』のクレジットに、ソロとなったノエル・ギャラガーとブラーの再始動が伝えられるグレアム・コクソンの名前が並んでいることが感慨深い。時代は確実に変わってゆく、けれどもポール・ウェラーは転がり続けている、ということなのだろう。

 今やレコーディング / ツアー・バンドのキー・マンともいえるオーシャン・カラー・シーンのスティーヴ・クラドック、元(解散前の後期)ストーン・ローゼズのアジズ・イブラヒムらに支えられたサウンドは、今までのどのアルバムよりも多彩で新鮮なアイデアにあふれている。というか、想像以上。70年代末のUKパンク勃興期にザ・ジャムとして、スモール・フェイセスやザ・フーから受け継いだモッド・スピリットを甦らせたあの小僧が! 80年代にはスタイル・カウンシルでブルー・アイド・ソウルを標榜しながら(特に日本では)オシャレになりすぎたこともあるあの伊達男が! 当時は見向きもしなかった(と思われる)ニュー・ウェーヴっぽいエレ・ポップやクラウトロックを鳴らしている。「師匠! なぜ今、コレなんですか?」と聞きたくなるけれど、オープニング・トラック「Green」の飛び交うシンセとスポークン・ワード風のヴォーカルがそんな僕らを黙らせる。「何だかわかんないけど、カッコいいッス!」ってね。「Kling I Klang」だなんて、クラフトワークそのまんまのタイトルを付けてしまうところも微笑ましい。

 プロデュースと楽曲の共作クレジットに名を連ねているサイモン・ダインにも注目しよう。彼自身、ヌーンデイ・アンダーグラウンドというプロジェクトを率いて4枚のアルバムをリリースしている。2002年の『Illumination』でポール・ウェラーのレコーディングに初参加。スタイル・カウンシルを彷彿とさせる流麗なホーンとストリングスが響く「It's Written In The Stars」などを手掛けて、その存在を印象づけた。2008年の大作『22 Dreams』では大半の楽曲の共作とプロデュースを担当し、鮮やかなサウンド・メイキングに大きく貢献。アルバムは全英No.1を獲得した。そして、前作『Wake Up The Nation』ではさらに関わりを深め、ついに全曲の作曲とプロデュースをポール・ウェラーと共に行っている。着実に成果をあげる出世魚みたいな男、それがサイモン・ダインだ。彼が参加してからのアルバムは、どれも色彩感覚が豊かでフレッシュ。相当なアイデア・マンとみた。きっとポール・ウェラーにたくさんのインスピレーションを与えているに違いない。さあ、PLAYボタンを押してみよう!

 とんがった音に耳を奪われてしまうけれど、このアルバムの魅力はそれだけじゃない。静謐なインストの「Sleep Of The Serene」からアコースティック・ナンバー「By The Waters」への流れも素晴らしい。タイトルどおりにせせらぎを連想させる美しいストリングスを担当しているのは、ハイ・ラマズのショーン・オヘイガン(!)。前作に参加したマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズに続いて、今回のサプライズ・ゲスト。この辺りの人選はサイモン・ダインの推薦かな。奥さんのハンナとのデュエットを披露する「Study In Blue」では、何とレゲエ / ダブに挑戦している。シド・バレットへと思いを馳せた「When Your Garden's Overgrown」はジュリアン・コープっぽいコズミックなポップ・ナンバー。自ら子供を量産(つい最近も双子が誕生!)する父親として、子供たちと彼自身の亡き父親への思いを託したラスト(国内盤にはボーナス・トラック2曲収録)の「Be Happy Children」まで、一気に聴けてしまう。やはり、アルバム・ジャケットはサウンドと意思を見事にビジュアル化したすてきなデザインだと思う。クールにキメていても、滲み出てしまう熱量。過剰に鮮やかな赤。

 1958年生まれで今年54歳になるポール・ウェラーは、今もこんなにも華やかだ。カラフル、という言葉がぴったりかもしれない。2009年以来の来日公演に期待しよう。今までのレパートリーとこのアルバムからの楽曲がどんなふうに織り交ぜられるのかな? それは僕たちにとっても、新しい発見と驚きに満ちあふれているはずだから。

 

(犬飼一郎)

retweet