LEE RANALDO『Between The Times And The Tides』(Matador / Hostess)

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LEE RANALDO.jpg 現在活動停止中のソニック・ユースのメンバー、リー・ラナルドによるキャリア初のヴォーカル・アルバム『Between The Times And The Tides』。リーはこれまで、ソニック・ユースでも度々メイン・ヴォーカルを披露しており(最近だと『The Eternal』収録の「Walkin Blue」など)、筆者はソニック・ユースのなかでも、リーの歌声が一番好きである。決して"上手い"とは言えないが、トーンを抑えた、地味ながらも味わい深い歌声には、聴き手を惹きつけるものがある。

 その歌声がもっとも生かされているのが、「Hammer Blows」以降のアルバム後半ではないだろうか。特に「Stranded」は、シンプルなサウンド・プロダクションも手伝って、リーの歌声を心置きなく堪能できる。本作にはソニック・ユースを想起させる曲もいくつか収録されているが、それらの曲よりも、カントリーの影響が窺える「Hammer Blows」などのアコースティックな曲が、本作をヴァラエティー豊かな作品に押しあげている。

 また本作には、数多くのゲストが参加している。ソニック・ユースのスティーヴ・シェリー、ボブ・バード(元ソニック・ユース)、ジム・オルーク、ウィルコのネルス・クラインといった面々だ。そして共同プロデューサーには、ジョン・アグネロを迎えている(もうひとりのプロデューサーはリー自身)。過去にリーと関わっている者が集まっており、それぞれミュージシャン/プロデューサーとしての評価も確立しているが、ポップ・ミュージックの持つ万能性と実験性を絶妙なバランスで両立させることができる人を集めておきながら、音楽的に突き抜けていないのはちょっと気になってしまった。

 「Off The Wall」におけるパニング、アコギの音色にノイズが交わっていく「Hammer Blows」など、随所に実験精神と遊び心は窺えるものの、それらはすべて、過去にリーが試みてきた実験の残骸でしかなく、強烈なインパクトとして聴き手を驚愕させるまでには至っていない。要は散漫なのだ。なんならいっそうのこと、ギミックを排したアコースティック・アルバムにしたほうが、リーの内面がより強調された興味深い作品になったのではないか。シンプルな曲が出色の出来なだけに、そう強く思ってしまう。

 

(近藤真弥)

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