LAURENT GARNIER「Timeless EP」(Ed Banger / Becauce)

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Laurent Garnier.jpg テクノ・シーンにおける重鎮ローラン・ガルニエが、《Ed Banger》からリリースをする。これはやはり、近年の《Ed Banger》が音楽性の幅を広げているのと無関係ではないだろう。《Ed Banger》と聞いて多くの人が連想するのは、"フレンチ・エレクトロの総本山"としてのイメージだと思うが、フレンチ・エレクトロの黎明期である2000年代半ば、ジャスティスアフィーといったアーティストを輩出し、音楽シーンを賑わした際の《Ed Banger》を表すフレーズとして、"フレンチ・エレクトロの総本山"は最適な表現だった。

 しかし、フレンチ・エレクトロの盛りあがりが落ちつくと、《Ed Banger》の動きも鈍くなっていった。まあ、これも"時代の音"を生みだしてしまったが故の宿命みたいなものだが、スクエアプッシャーのリミックス盤、さらにはフライング・ロータススクリームといったアーティストのエクスクルーシヴ・トラックが収められた『Let The Children Techno』をリリースするなど、冒頭で述べたように近年の《Ed Banger》は、音楽性の幅を広げている。

 そんな《Ed Banger》の方向性を裏づけるかのように、「Timeless EP」には過去に《Ed Banger》からリリースされた音源との共通点はない。強いて言うなら、シンプルかつ硬質なシンセ・リフが印象的な「Jacques In The Box」に、フレンチ・エレクトロ特有のディストーション・シンべを感じさせる音が入っているくらいで、それ以外は、デトロイト・テクノの影響下にあるガルニエらしいテクノだ。もちろん出来が素晴らしいのは言うまでもない。全収録曲がフロア仕様の上質なダンス・ミュージックで、複層的シンセ・ワークやエフェクト処理による空間演出など、ベテランらしい丁寧な技も見受けられる。

 そして面白いのが、「Our Futur(Loud Disco Mix)」である(CD盤には同曲の"Detroit Mix"も収録されている)。このタイトル、英語の"Our"に続くのが、"Future"から"e"を取ったフランス語の"Futur"なのだ。「Our Future(アワ・フューチャー)」と「Our Futur(アワ・フテュール)」、どちらも"我々の未来"と訳すことができるが、「Our Futur」と名付けたのは、フランスの未来について言及した、ガルニエなりの暗喩ではないだろうか? いまフランスは、財政赤字の削減が最重要課題として挙げられ、今年1月には総額4億3000万ユーロの緊急雇用対策が発表されるなど、不況の真っただなか。そうした状況のフランスにメッセージを送るため、ガルニエは「Our Futur」を作った。と、ポジティヴな歌詞からも推察できる。なんせガルニエは、ドラッグ問題などが原因でフランスのダンス・カルチャーが叩かれたときも、シーンを守るため真っ先にメディアを通じて行動を起こした男である。ありえなくはない。そう考えれば、「Our Futur」の力強いグルーヴにも納得がいくというものだ。

 ガルニエがリスペクトを公言するURのマッド・マイクもそうだが、ガルニエは音楽を通じて世界を見つめ、戦い、道を切り開いてきた。それはガルニエ自身、音楽の可能性を信じているということの証左であり、この信念が本作にも深く刻まれていることに、筆者は感動するのである。

 

(近藤真弥)

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