LA SERA『Sees The Light』(Hardly Art / Yacca)

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LA SERA.jpg 気持ちいいほどギターを掻き鳴らすガールズ・バンド、ヴィヴィアン・ガールズでベースとコーラスを担当するキックボール・ケイティことケイティ・グッドマン(現在はニューヨークから居を移しカリフォルニアに在住)。本作『Sees The Light』は彼女のソロ・プロジェクトであるラ・セラの約1年ぶりとなるセカンド・アルバムだ。

 ジャケットを見てのとおりの美貌ゆえ、ディスクユニオンでは日本盤に限定特典として彼女の秘蔵フォト50枚のダウンロード・クーポンが付いている。しかし、その美貌とは裏腹に「Real Boy」や「Drive On」のMVでピリッと毒の効いた姿を披露。ヴィヴィアン・ガールズの中ジャケを見ると腕にはタトゥーが...。と、中々アンビバレントなところがある。それでいて本作のジャケは60年代風の清楚な感じというのが、なんとも、にくいというか...。でも前作『La Sera』と同じくしてオールディーズ風の1曲目だけですっと聴き手を音に誘い込む。さらさらと耳に入ってくる涼しげな歌声。ふわりと甘美に覆われるサウンド。これこそ待っていたセカンド、と思いきや、アルバムを通して聴くと豊かな音楽性が贅沢なほど詰まっているのが分かる。

 カリフォルニアのサイケデリック・ロックバンド、ダーカー・マイ・ラヴ(Darker My Love)のロブ・バーバートとの共同プロデュースである本作(ロブはザ・フォールの最近のメンバーとしても活動している)。それは、ソフトで優美に舞っているような歌声とコーラスが耳に近づいては離れ、近づいては離れというのを繰り返しながらヴァシュティ・バニヤンのような、ささやかなサイケデリック感を楽曲に与え聴き手を包み込む。それだけでも参ってしまうのだがヴェルヴェット・クラッシュを思わせるポップ感をさらりと忍ばせ、歌声に程よいエコーを効かせたサウンドはドライブも効いていて、特に駆け抜けるノイジーなギター・サウンドと、そっと顔を出している程度のコーラスと透き通る歌声が聴き手に染み込み、突き抜ける。爽快感と浮遊感、ノスタルジアが交差する本作。そこには、同じくヴィヴィアン・ガールズのメンバー、キャシー・ラモーンのサイド・プロジェクトであるベイビーズ(Babies)とは違ったアンニュイなローファイ感とでも言うべき音の手触りとポップ感がある。ぜひ聴き比べて楽しんでほしい(もちろんベイビーズのファースト・アルバムも傑作。ベイビーズはウッズのメンバーも参加している4人組)。マジー・スターに似た霧の中を歩いているようなサウンドスケープがあるのはロブ・バーバートが共同プロデューサーという理由だけではなく、ロブのみならずダーカー・マイ・ラヴのメンバーも演奏に加わっているのも大きい。アルバム全体を通してケイティ・グッドマンの可能性がぐっと広がっているのがなんとも嬉しくなった。去年発表されたヴィヴィアン・ガールズの最新作『Share The Joy』の音楽性の変化はラ・セラとベイビーズがもたらしたのかもしれない。こちらもぜひ聴いてほしい。

 「Break My Heart」「I'm Alone」など、直球の曲名が並ぶ本作の歌詞には、あなたと私の世界が横たわっている。《私は一人ぼっち / あなたが私の心を盗んだときのこと、覚えてない? / 始めから私はあなたのもの》(「I'm Alone」)ともすればありきたりな歌詞なのに、きらきらとしたギター・サウンドと晴天が目に浮かぶような、よく通る歌声がポジティヴな空気を楽曲に運んでいる。《ああ、あなたをまた失ってしまった / あなたは私のすべてだったのに、あっさりと捨ててしまったの》(「Break My Heart」)独りであることの悲痛なつぶやき。しかし余計なギミックを投げ捨てた歌詞は、音と同化すると新たに踏み出す一歩として聴こえてくる。もし、音楽的な意味で、次なる「あなた」がロブ・バーバートだったとしたらストーリーとして出来過ぎかもしれない(無論、ロブとの恋愛関係はないだろうし、もしあったとしたら録音段階で相当気まずいはず...)。

 前作を聴いた時、ラ・セラは休暇的なプロジェクトなのかなと思ったが、本作を聴くとリラックスした雰囲気はそのままにケイティ・グッドマンは本腰を入れている。ファースト・アルバムでソング・ライティングを身に付けた彼女は、その先としてサウンド構築の多彩さを望んだ。その解答がドノヴァンやドアーズ、バーズの『霧の5次元』などを思わせるダーカー・マイ・ラヴとの繋がりだったことは興味深い。ドット・アリソンとリチャード・フィアレスの関係のように、ディープな音世界を互いに触発されながら作っていくことになれば面白いし、ベックと組んでもいいんじゃないかと思いもした。またはシャンタル・ゴヤやリヴィング・シスターズのような音楽性をとことん突き詰めていくのも面白いと思ったが、現時点ではロブ・バーバートが適任だろう。

 前作以上に、彼女にはまだまだ先があると思えるアルバム。全く別の領域に踏み込める可能性をケイティ・グッドマンは本作で手に入れた。今後が楽しみになる作品だ。前作同様、もぎたての果実みたいに甘酸っぱい。彼女の表現欲求がしなやかに広がっている傑作。

 

(田中喬史)

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