JAMES IHA『Look To The Sky』(EMI Music Japan)

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JAMES IHA.jpg 元スマッシング・パンプキンズのギタリストであるジェームス・イハの、前作『Let It Come Down』から14年振りとなるセカンド・アルバムが到着した。ジェームスはそのルックスからも想像できるように、非常に繊細な線の細いサウンドと声が持ち味。ことさらソロ作となると一気にSSW然とした爽やかで心温まる、ときに胸がキュンとなるような甘酸っぱさをみせながらグッド・ソングスを奏でていき、前作収録「ビー・ストロング・ナウ」の世界観に多種多様の賑やかな装飾を施したものが多く顔を見せる。

 線の細さで思い浮かぶのがスマッシング・パンプキンズ4作目となる『Adore』でのギター・パートだが、それ以外のアルバムでバンドと関連付けられるものは非常に少ない。『Siamese Dream』の繊細さもビリーによるところが大きいし、強いて言えば『Mellon Collie And The Infinite Sadness』の「Take Me Down」か、次点で「Farewell And Goodnight」といったところだろう(この2曲はジェームスが書いている)。この作品は"静と動"(裏と表)に分けられていたため、その"静"(裏)の部分(の一部)を担っていたのがジェームスだったわけだ。

 「Appetite」という曲の中で激しいピアノ演奏(ゲスト・ミュージシャンによるものと思われる)が聴かれるが、その奥で前衛的なギターが聴こえると思ったらなんとトム・ヴァーラインだった。今回ヤー・ヤー・ヤーズのカレン・Oならびにニック・ジナーが参加しているという特出した前情報があったため注目度は薄かったが、ジェームスの嗜好の現れかもしれないと思うと実に胸が躍る。出来ればもっと前面に出して聴かせてほしかった。だがレコーディングがニュー・ヨークということで、彼なりに"日常"の中にニュー・ヨークの要素をちりばめたかったが故の試みだったのではとも思える。

 本作ではギターやベース以外にピアノ、グロッケンシュピール、シンセといった楽器にも挑戦している彼だけに、ギター・サウンドに頼らない着色も美しく暖かいものに仕上がっている。かと思えば「双子座(Gemini)」なんていう曲名を見るとつい『パイシーズ・イスカリオット』を思い出してしまうのは悲しい性だ。パイシーズ(Pisces)はもちろん魚座の意。ジェームス自体は実際に魚座のビリーとは同じ3月生まれでも魚座でないのだが、ネーミング・センスがなんとも可愛らしいではないか。もっともビリーの方は裏切り者(Iscariot)なんて言っているが、まさか"Can't Pretend, Gemini"というリリックが返答だったら面白い。

 そして14年前に感じた印象が"ラヴ・ソング"なのだとしたら、その根本は変わっていない。しかし前述したように音の"装飾"が膨らんだのであれば、それに比例してリリックも膨らんでいて、君(You)という言葉を多用するばかりではなく、少し陰のある曲や彼独特のストレートな物言いでの愛情表現とは少し違うものも出てくるようだ。また例えばブラーのギタリストのグレアムが"あの高い空を見てごらん"とでも言いたげな『スカイ・イズ・トゥー・ハイ』をソロ・デビュー作のタイトルに持ってきているように、ジェームスが今回"上向き"(外向き)な「ルック・トゥー・ザ・スカイ』というタイトルを(40代半ばにして!)セカンド・アルバムに持ってきているのは初々しいし、或いは前作が『レット・イット・カム・ダウン』だったから"下向き"(内向き)にならないよう対をなすようにそうしたのかもしれない。いずれにせよ、今回の"スカイ"というのが晴れた空でもあり曇った空でもあり夜の星空でもある、そんなふうに想像力を多様にかき立ててくれるものだと言って間違いない。

 もう一点、今回もジャケットは黄色をテーマにしていて、それだけ見れば前作と変わらないだろう。SSWというものは得てして自分の顔写真をアルバム・カヴァーに起用することが多く、実際に彼のデビュー作でもそうだったが、今回は文字にしていて不器用ながら暖かみのある綺麗すぎない手作り感が出ているし、黄色という色にどこかタンポポの花のような、小さいけれど強靭なハートを持った凛とした美しさや可憐さ、強さを彼自身と重ねて見て取れる気がする。

 こうして文字通りのスウィートな音楽を今回も届けてくれたジェームス。まるで耳元で囁かれているかの如き艶かしいヴォイスに相も変わらずうっとりとしながら、バックに光る音楽と14年という歳月によって培われたサウンドの変化を存分に楽しめる、輝かしい逸品。今夏はフジロック フェスティヴァルへの出演も決定しており、生でその姿が拝める機会がこんなにも早く訪れるというのはかなり嬉しい朗報。フェスに行ける人はもちろん、行けない人のためにも、そして小さいハコでこそ発揮される空間があるだろうアーティストなので、是非とも単独ジャパン・ツアーが行なわれることを期待したい次第だ。今のところ日本国内盤のみのリリースで輸入盤はないようだが、ボーナス・トラックの2曲は、ない方が一つのアルバムとしてのまとまりを感じられて良いだろう。

 

(吉川裕里子)

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