TRAXMAN『Da Mind Of Traxman』(Planet Mu / Melting Bot)

Traxman.jpg ジェームズ・ブレイクも「We Might Feel Unsound」でジュークを取り入れるなど、いまや世界中のアーティストがジュークに飛びついている。それは、よく言及されるポリリズム的ビートはもちろんのこと、ジュークがダブステップ並みの順応性を備えているからだと思う。とはいえ、ジュークの魅力といえばやはり、クラウドを狂喜させるボディリーな快楽である。ジュークを取り入れはじめたアーティスト達は、ジュークの音楽的要素には着目していても、ボディリーな快楽については関心がないように思えるし(関心があったとしても、それを音として表現できていない)、なにより、"取り入れる"といったレベルだ。実験精神を満たすためのパーツとして取り入れ、ジュークを"匂わせる"ことはできても、血肉として消化し、独自のジュークを"鳴らす"には至っていないというのが現状ではないだろうか。

 こうした現状をふまえると、ジュークも細分化の道を進んでいるかのように見える。毒色を薄め洗練へ向かう者と、あくまでゲットー・マナーにこだわる者。まあ、細分化はポップ・ミュージックのクリシェみたいなもので、避けられないことではある。しかし『Da Mind Of Traxman』は、そんな細分化の動きに囚われないトラックスマンの偉大さをまざまざと見せつける。

 本作は、数々のジューク・クラシックを生みだしてきたトラックスマンによる待ちに待ったアルバムだが、ジュークの持つボディリーな快楽と洗練を高いレベルで両立させた、ダンス・ミュージック史に残る名盤である。ジュークはもちろんのこと、ハウス的ソウルや昨今のビート・ミュージックを想起させるタメやグルーヴ、そしてヒップホップ的なサンプリングなど、これまでトラックスマンが培ってきたスキルとセンスが遺憾なく発揮されている。

 一聴した感じでは、突拍子もない飛び道具だらけの珍品に思えるかもしれないが、注意深く聴けば、本作に収録されている曲群は、シカゴ・アンダーグラウンド・ミュージックの歴史に深く根ざしたものであることがわかるはずだ。最近巷を賑わせる音楽は、歴史から解放された"文脈なき音楽"であることが多いが、本作の背景に歴史があるのは、トラックスマンが長年シカゴのウェスト・サイドに拠点を置きながら活動してきたことと無関係ではない。いや、だからこそ、トラックスマンは"伝統"が持つ深みを表現できるのだ。それは、トラックスマンが"伝統"を表現できるだけの経験と技を積み重ね、その資格を得たからであるのは言うまでもない。

 現在の盛りあがりからすると、このさき数多くのジュークが生みだされるはずだ。もし、これからジュークを作ろうとしている者、そして、ジュークを聴こうと考えているあなたは、真っ先に『Da Mind Of Traxman』を手に取るべきだ。本作はジュークの集大成であるが、未来のクリエイターに向けた教則として、失われることがない存在感も備わっている。

 

(近藤真弥)

 

※本作は4月5日リリース予定。

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