ME AND CASSITY『Appearances』(Tapete)

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ME AND CASSITY『Appearances』.jpg ドイツのアンダーグラウンド・ポップ界におけるヒーローと言わしめるSSW、ミー・アンド・キャシティことダーク・ダルムシュテッターによる久々のバンド編成での作品である。ほぼ1年に1枚のペースで、コンスタントに作品をドロップし続けている彼も、ミー・アンド・キャシティ名義でのアルバムは実に8年振りにもなり、ソロ名義などを合わせれば、これで通算16枚目のフル・アルバムとなる。ちなみに本盤は2012年3月現在、今年リリースされたアルバムの中で、筆者が一番ハマったアルバムである。

 トッド・ラングレン、ニック・ドレイク、ボブ・ディランなどへのリスペクトを掲げており、彼自身もギブソンES-335から12弦のアコースティック・ギターまで弾き倒すギター少年であるのだが、本盤ではギターの役割はかなり抑制されており、手癖によるオブリなんかはいちいちかっこいいものの、あくまでも曲の屋台骨としての役割を担うだけに終わっている。フォーキーなアルバムが続いただけあって、ミー・アンド・キャシティ名義での前作『Between Wake And Sleep』のような、派手なリード・トラックを期待していたのだが、その期待を良い意味で裏切るような、上質のバンド・サウンドを鳴らしている。

 上記のようなルーツ音楽に根差したフォークよりも、「AORっぽくなったなぁ」という印象を筆者は抱いた。少し懐かしい名前を挙げるなら、ティアゴ・イオルクにも通じる、素直なポップ・ソングであるし、ギターの自己主張が薄まったことで、よりAORらしさが浮かび上がった。跳ねたリズムと混声によるコーラスが爽やかな「Fred Astaire」では、アコギは地味なバッキングのみに徹しているし、本盤の全般で鳴っているストリングスとホーン・セクションが、よりバンド・アンサンブルのカタルシスを生む。これらのアレンジは、アイアン・アンド・ワインとの共盤を作成したキャレキシコのサポート・メンバーであるAnne De WolffとMartin Wenkによるものであるのだが、無国籍的なバンドであるキャレキシコのメンバーがサポートし、ダルムシュテッター本人もルーツ音楽を意識していたにも関わらず、結果AORらしいアルバムに辿り着いたことは、とても面白い。

 活動開始から24年が経っているものの、純粋に素敵だなと思わせるメロディが、次から次へとぽんぽん飛び出してくる。変わらない彼の声と瑞々しい歌詞は、音楽性は異なるものの、日本人アーティストで言えば小沢健二を想起させる(もう少しロックだけど)。多くの方に聴いて欲しい。

 

(楓屋)

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