GRIMES『Visions』(4AD)

Grimes.jpg 最近話題の"ポスト・インターネット"はご存じだろうか? ポスト・インターネットは、ネットが存在する世界が当たりまえの世代を指す言葉で、その代表的アーティストがグライムスらしい。ポスト・インターネット世代の音楽は"何でもあり"が特徴だが、確かにグライムスの音楽は、その特徴に当てはまる。


 その"何でもあり"な姿勢は、『Visions』のジャケにも表れている。日本の漫画みたいなタッチで描かれた、おどろおどろしいジャケ。それはまるで、楳図かずおの絵みたいだ。あくまで想像だが、グライムスことクレア・バウチャーは、楳図かずおの漫画を読んだことがあるのではないか? 「Vanessa」のMVはK-POPに触発され作ったそうだし、それこそポスト・インターネット世代ならば、ネットを介していろんな文化に触れていてもおかしくない。


 こうした意外性や文脈のなさも、ポスト・インターネット世代の特徴かもしれない。本作はチルウェイヴ以降の音像が特徴的なエレ・ポップだが、ビートからはエレクトロやドリルンベースの影響が窺え、さらにサウンド・プロダクションはニュー・ウェイヴを想起させるなど、多様な音楽性を披露している。そして、そんな彼女の音楽は、歴史に対するリスペクトや理解よりも、好奇心が暴走したような軽薄さによって作られている。


 だから、彼女の音楽にルーツは存在しない。もちろんゼロから作りあげたものではないが、歴史的観点から彼女の音楽を掘り下げても、行き着く先は膨大な情報量のみで、それは"線"で繋がっていない"点"の集合体である。聴き手が"点"を繋げ"線"にすることも可能だが、それは新たな"点"を生みだすだけであり、決定的な答えとはなりえない。彼女の音楽は聴き手の数だけ存在し、情報が付随され、価値が高まり、側面が生まれる。こうした増殖が、彼女の不気味な魅力を増大させるのだ。


 そんなグライムスは、好き嫌いがハッキリ分かれるアーティストだと思う。歴史や文脈を重んじる伝統主義者からすれば、嫌忌を抱かせる存在だろう。そうした感情を抱く者が、「ミュージシャンは音楽の歴史を知っているべき」と語るヴァクシーンズみたいなバンドに飛びつくのかもしれない。


 両者は対極に位置しているが、"いま求められている"という点では共通していて、そこがまた面白い。そして、両者とも音楽に対する愛情があることも見逃してはならない。ただ、その愛情の形が違うだけなのである。ヴァクシーンズは文脈に組み込まれることに喜びを見いだすが、グライムスはその逆。アーリーな思考で音楽を捉えることで歴史やルールから逸脱し、エイフェックス・ツインを初めて聴いたときのような衝撃を聴き手に与える。その衝撃は、聴き手をコミットさせるには十分すぎるものであり、グライムスが時代の寵児であることを雄弁に物語っている。

 

 

(近藤真弥)

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