DIRTY THREE『Toward The Low Sun』(Drag City / Bella Union / P-Vine)

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DIRTY THREE.jpg 震災直前の2011年2月、オルタナティブ / ポスト・ロックの祭典"All Tomorrow's Parties"の姉妹イベントである"I'll Be Your Mirror(以下、IBYM)"がついに日本でも開催された。激烈な轟音電子サウンドで観客の度肝を抜いたファック・ボタンズと孤高の深遠さを見せつけたヘッド・ライナーのゴッドスピード・ユー! ブラック・エンペラーに挟まれるスロットで登場したのがダーティ・スリー。オーストラリア出身のむさ苦しいオヤジ3人衆。まるでコント・グループか西部開拓時代の強盗団みたいなバンド名だけれども、それもあながちハズレでもなくて、その独特のライヴを体験した後では彼らにぴったりのネーミングだなとも思えた。バイオリン、ギター、ドラムという編成で鳴らされるインストゥルメンタル・サウンドは、ポスト・ロックやストーナー・ロックとも形容される不穏さ/凶暴さを持ち合わせているし、アルバムを遥かに凌駕する爆音のライヴ・パフォーマンスはまさに圧巻のひとこと。彼らが他のIBYM出演バンドとちょっと違ったのは、通訳をステージに上げて、曲の解説をしていたところ。ユーモアたっぷりの仕草で一生懸命にコミュニケーションを取ろうとするウォーレン・エリス(バイオリン)の姿は、詰めかけたファンを大いに和ませていた。そして今、前作『Cinder』から約7年ぶり、通算8枚目となるダーティー・スリーの新作『Toward The Low Sun』がリリースされた。愛すべきオヤジ3人衆が堂々の帰還だ。

 7年ものインターバルは決して短くはない歳月。移り変わりの激しい音楽シーンでは、バンドそのものが忘れ去られても不思議じゃない。けれども、ダーティー・スリーの3人はシーンから遠ざかるどころか、別ユニットや客演、ソロ活動を活発に行っていた。ここに僕が大切に(笑)保管しておいたIBYMのミニ・パンフレットがある。近年の活動については、ウォーレン・エリス自身の手によるバイオグラフィーから引用させてもらう。ちょっと長くなってしまうけれども、「ダーティー・スリーって、どんなバンド?」という人にも、きっと興味を持ってもらえると思うから。

 "2005年の『Cinder』のレコーディングとツアー以来、新しいアルバムのレコーディングはできていなかったが、今は半分まで仕上がっている。他のバンド活動や子供が生まれたりしたおかげでもある。ジム・ホワイト(ドラム)はボニー・プリンス・ビリー、ビル・キャラハン、キャット・パワーらのレコーディングに参加しながら、PJハーヴェイ、マリアンヌ・フェイスフルのアルバムにも楽曲提供。ミック・ターナー(ギター)はペインティングに、展覧会や、複製、また個展を開き、映画やテレビのサントラを録音し、ウィル・オールダムのオーストラリア / アジア・ツアーに出ている。僕はと言えば、バッド・シーズとのレコーディングやツアーに参加しながら、グラインダーマンを結成し、ニック・ケイヴと映画のサントラを録音し、(中略)ダーティ・スリーとしてスタジオに入っていないものの、みんな何かしらの形でレコーディングは行っている。それも頻繁に、というか相当な数だ" (メンバーの担当楽器は筆者注)

 どう? すごいでしょ。"相当な数"に敢えてひとつ付け加えるなら、ウォーレンは2006年にプライマル・スクリームの『Riot City Blues』にも参加。9曲目「Hell's Comin' Down」で猥雑なカントリー・ロックに華を添える軽快なバイオリンのソロを披露している。グラインダーマンでは、"ギターを持つ"ニック・ケイヴも新鮮だったけれども、バッド・シーズをさらにソリッドにワイルドに増幅したサウンドの核として、ウォーレンが果たした役割は大きかった。惜しくもグラインダーマンは2011年に活動休止が宣言された。今後は2枚のアルバムとツアーでの経験がバッド・シーズへと(文字通り)フィードバックされることが期待される。

 そして、上記のバイオグラフィーで触れられている"半分まで仕上がって"いた新作が、この『Toward The Low Sun』というわけだ。プロデュースのクレジットはなく、録音とミックスはトータスやシー・アンド・ケイク、ガスター・デル・ソルなどを手掛けてきたケイシー・ライスが前作に引き続き担当している。スタジオでのラフなジャムをベースにしながらも、入念にリアレンジを施したと思われるエフェクト処理と緻密な楽曲構造に耳を奪われる。死にかけた白馬に乗った王子が血の色をしたドラゴンと戦うアート・ワークは、ギターのミック・ターナーによるもの。深みのある背景の青が印象的だ。それは夜空かもしれない。

 オープニングを飾る「Furnace Skies」は、待ちわびたファンの渇望を満たすのに充分なヘヴィー・ナンバー。"炎暑の空"というタイトルがぴったりだ。ビートを解体したドラムとノイズ・ギターは安易な前進 / 展開を拒む。もの哀しいバイオリンと折り重なるそのアンサンブルは、行き場を失い猛り狂う竜巻のよう。幻想的でありながら、グロテスク。そしてインストゥルメンタルでありながら、詩情豊かなサウンドは、やはり唯一無二の存在だと言える。そのサウンドとソング・タイトル、そしてアート・ワークだけを手がかりに無限の想像力の旅へ出よう。"時々、きみが死んだことを忘れてしまう"と感じながら、"大地に浮かぶ月"を眺め、"桟橋"で波の音を聞く。やがて"雨"は"灰色の雪"へと変わる。追憶と死が散りばめられた音像は、言葉よりも雄弁に多くを物語るだろう。カントリー・トラッドからジャズ、ブルース、グランジまでを貪欲に飲み込んだダーティー・スリーのサウンドは、もっと多くの人に聞かれるべきだと思う。振り返りながら、立ち止まりながら、それでもゆっくりと進もう。沈みかけた太陽に向かって。

 

(犬飼一郎)

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