PERFUME GENIUS『Put Your Back N 2 It』(Matador / Hostess)

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PERFUME GENIUS.jpg シアトル在住のSSW、パフューム・ジーニアスの前作『Learning』は、なにかとネガティヴな印象で語られることが多かった。無理もない。彼はドラッグ漬けという、苦しみ続けた半生を持ち、立ち上がるため、母親のベッド・ルームでざらついたオーケストレイションと、か細くも芯のある歌声によって苦悩を前作で鳴らしたのだから。それはとてもパーソナルかつ、特別めずらしいわけでもない表現欲求・手段でありながらも、癒しと同時に哀しみが強烈なリアリティを持って鳴り渡り、聴き手の弱い気持ちを見付けだすものだった。それは僕らに甘美な心地を与え、苦痛を耐えやすいものにする。いわば、僕らは現実を捨て去りパフューム・ジーニアスの世界に浸ることのみならず逃げ込むことさえできた。

 しかし彼は、自分自身も、そして聴き手も逃げ込める音楽を作ることを目的化していなかったし、これからもしないだろう。「堕落している自分」をキャラクター化する気もさらさらないことが、このセカンド・アルバム『Put Your Back N 2 It』ではっきりした。本人いわく、「絶望、背徳、中毒症状がもたらす虚無といったものが飛び交う世界」とのことだが、重くはなく、そんなに大げさな音楽ではない。本作では、「過去の堕落した自分自身にはもう戻らない」という意思のもとで、音がぐっと歩を進めるように鳴っている。打ち込みが静かに鳴り、クリアになった音響が磨り合い、時に小気味よくステップし、ギターもピアノも歌声も、圧倒的でも絶望的でもなく、素朴な美しさを持っている。要は、親しみやすくポップなのだ。それは彼にとって今の等身大の姿としての音なのだろう。パフューム・ジーニアスは常に自分を飾らない。彼が鳴らす音は彼自身の心情とリンクしていて、パーソナルな姿として響き渡る。

 スフィアン・スティーヴンスアントニー・アンド・ザ・ジョンソンズの影が見えればマーキュリー・レヴの『Deserter's Songs』を思わせるところもあり、なおかつ本作ではシガー・ロスのような、聖域へと徐々に導かれていくようなサウンドが全曲貫かれている(過日行なわれたHostess Club Weekenderでのライヴでは音の探究者としての姿も見えた)。しかし前作より、純粋に曲の骨格はポップ・ソングとして聴ける側面があり、アルバムをポジティヴな空気で包んでいる。まるで裸足で森の中を散歩しているような邪気の無さ。ここにあるのはそういう些細だけれども閉じこもらない音の数々と歌なのだ。

 もはやパフューム・ジーニアスに堕落的・絶望的というイメージはいらない。単純にイメージに囚われない、音楽としての美しさがある。それは例えば、もはや神聖かまってちゃんを非リア充というイメージの縛りで聴く必要なんてほとんどないことと同じだ。本作を期にアーティストをキャラクター化することで聴こえてくるものとこないものを考えてみるのも面白い。これはジャンルにも言えることだ。

 

(田中喬史)

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