THE BLACK KEYS『El Camino』(Nonesuch / Warner Music)

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THE BLACK KEYS.jpg クッキーシーンの「Private Top10s Of 2011」を選んでいる真っ最中に、おんぼろのミニバンが最高のロックンロールを鳴らしながらやって来た! ヒゲ面のダンとメガネのパトリック。相変わらず冴えない風貌の2人組、ブラック・キーズはいつもの相棒も連れている。この7thアルバム『El Camino』は、その相棒であるデンジャー・マウスがプロデュース。5th『Attack & Release』、6th『Brothers』のリード・トラック「Tighten Up」に続くコラボレーションだ。

 デンジャー・マウスは昨年、ダニエル・ルッピとの連名で『Rome』をリリースしたことも記憶に新しい。架空のマカロニ・ウエスタンのサントラというユニークな設定で、揺らめく太陽と乾いた砂ぼこりが目に浮かぶ映像的なサウンド・メイクを展開。ジャック・ホワイト、ノラ・ジョーンズという希代のヴォーカリストの魅力を最大限に引き出す手腕は、"ヒップホップ/エレクトロニカのトラック・メイカー"という出自から大きく飛躍していることを改めて印象づけた。これまでにもスパークルホースのプロデュースやシンズのジェームズ・マーサーとのユニット、ブロークン・ベルズなどで見せた(聞かせた)インディー・ロックとの相性の良さは、もっと注目されて良いと思う。

 ブラック・キーズとデンジャー・マウスは、"もう、とっくに"出会っている。ブラック・キーズは、ブラックロック(Blakroc)名義でQティップ、Rza、レイクウォンなどを迎えたヒップホップ・プロジェクトも成功させている。その事実だけでも、彼らがホワイト・ストライプスとはまったく違った道を進んでいることは明白だろう。ブラック・カルチャーの中で、ターンテーブルやミキサーをいじっているうちに生まれたアイデアと身に付いたテクニック。白人のキッズがかきむしるギターと打ち鳴らされるドラムのビート。ストリートの知恵とガレージの熱気が今、ごちゃ混ぜのグルーヴを生み出すという幸福。

 前作『Brothers』で聞きどころのひとつでもあったジェリー・バトラー(60~70年代に活躍した男性ソウル・シンガー。カーティス・メイフィールドと共にインプレッションズを結成したが、脱退しソロへ転身)のカヴァー「Never Gonna Give You Up」で見せたソウル・ミュージックへの深い造詣と愛着。続く「These Days」でメロウに、ソウルフルに歌い上げて幕を閉じる流れは、ブラック・キーズの新境地を感じさせるのに充分なインパクトがあった。「These Days」には、こんな一節が歌い込まれている。《エリス通りに建つ小さな家は/俺がどこよりも生きていると実感できた場所/あの古いフォードをオークの木が見下ろしていた/神よ すごく恋しいんだ/すごく懐かしいんだ》。

 輸入盤『El Camino』のジャケットに貼られた"PLAY LOUD"のステッカーに笑いながら、Playボタンを押す。めくってもめくっても古ぼけたミニバンだらけ(...エル・カミーノってシボレーのクーペなんだけど、まぁ、いいか!)のふざけたブックレットを手にしながら、最後のページにこんなクレジットを見つけた。"All Songs Written By D.Auerbach, P.Carney, B.Burton"―そう、デンジャー・マウスことブライアン・バートンは、アルバムすべての曲作りにもしっかり参加! おんぼろのミニバンに囲まれて「Lonely Boy」が帰ってきた。愛を待ちこがれながら、よりソウルフルに。より自由に。

 作曲段階からデンジャー・マウスを受け入れるということでも、2人組という制約は取り払われているようだ。キャッチーなギター・リフとタイトなドラミングはそのままに、ベース・ラインと電子オルガン/キーボードを強調したサウンドが耳を奪う。そして、前作から引き継がれたソウルフルなヴォーカルはさらに力強く、時にメロウだ。幾層にも重ねられた音のレイヤーが重苦しくならず、グルーヴィーに聞こえるあたりはデンジャー・マウスの真骨頂だろう。アプローチは異なるけれども、ベック『Modern Guilt』でのプロデュース・ワークを彷彿とさせる冷静な目線と丁寧な手さばきが光る。何度聞いても飽きない3分半の魔法。それがロックンロールだ。

 「前作『Brothers』がグラミー賞3部門を受賞!」だとか「セールス100万枚!」だとか「今度はアークティック・モンキーズを前座に北米アリーナ・ツアーへ!」だとか、海外での評判はもう充分。日本ではどうなのかな? 今こそ、ブラック・キーズを聞かなくちゃ。2004年のフジロック以来の来日を願いながら。2012年、日本中でこの素晴らしいロックンロールが鳴り響きますように!

 

(犬飼一郎)

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