SPEECH DEBELLE『Freedom Of Speech』(Big Dada / Beat)

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SPEECH DEBELLE.jpg 前作『Speech Therapy』でスピーチ・デベルは、内省的な言葉を多用した。それは、彼女自身を忠実に反映してはいたが、同時に、パーソナル過ぎて近寄りがたいアルバムでもあった。

 だがそれは、仕方がなかったとも言える。というのも前作は、当時の彼女がそれまで経験してきた苦難や挫折が描かれた、"ヒストリー"と呼べる作品だからだ。10代半ばからマリファナを吸いつづけ、度重なる非行に業を煮やした母親から勘当されホームレス生活に陥るといった過去が、アルバムに重苦しい緊張感をもたらしていた。この重苦しい緊張感が、どうしても好きになれなかった人もいるだろう。

 「I feel so good. It feels better than I imagined. My family's here. My friends are here. I'm from south London. I don't get emotional I'm emotional.」
《最高の気分よ。思っていた以上に素晴らしい。家族も友達も来てくれた。私はロンドン南部の出身で感情的にはならないほうだけど、その私がなっている》(筆者訳)

 上記の引用は、『Speech Therapy』が英マーキュリー賞を受賞した際の、スピーチ・デベルによるコメントだ。しかし『Freedom Of Speech』は、先述のコメントとは違い感情豊かな表現があり、"魂の叫び"と呼ぶべき余裕と貫禄を感じさせる。「Daddy's Little Girl」に顕著だった前作の怒りは革命への情熱となって、言葉に絶大な説得力をあたえている。独り言すれすれだった歌声にはソウルが宿り、その歌声は、言語の壁をものともせず、まっすぐ聴き手の心へ突きすすむ。そしてなにより本作は、愛にあふれている。

 また、DRCミュージックに参加したクウェズ(Kwes)の貢献も特筆に値する。《Warp》と契約したことでも知られる新進気鋭だが、そんなクウェズとのコラボレイションは、大成功と断言できる。キレ味鋭いヴォーカルに、それを支える精密なサウンド・プロダクションなど、2人が鳴らす音楽は、素晴らしい化学反応を生みだしている。

 本作には、ルーツ・マヌーヴァとリアリズムをフィーチャーし、去年のロンドン暴動に反応する形で彼女自らリークした「Blaze Up A Fire」や、「Eagle Eye」「Collaps」といった政治的メッセージが込められた曲もある。だが、難しく考える必要はない。聴き手は、彼女の真摯な姿勢、哲学、魂に耳を傾ければいい。その歌声は国境、文化、思想、あらゆるものを飛び越え、人々に届く。この事実に、ただただ感動する。『Freedom Of Speech』とは、そういうアルバムだ。

 

(近藤真弥)

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