ナダ・サーフ

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NADA SURF

未来には希望を持っているよ
だけど今は本当におかしな時代だ

2012_01_nada_surf_A1.jpgダイナミックかつナチュラルな躍動感が、彼らの"うた"の素晴らしさを際立たせている。デビュー以来15年以上を不動のトリオ編成でサヴァイヴしつづけてきたナダ・サーフのニュー・アルバム『The Stars Are Indifferent To Astronomy』は、そんな彼らのフランクかつオネストかつ真摯な姿勢が、この激動の時代にさらなる輝きを持つことの証左のごとき傑作だ。

今回も本国ではデス・キャブ・フォー・キューティーとの関係で知られるバーサクからのリリースとなる『The Stars Are Indifferent To Astronomy』は、ガイデッド・バイ・ヴォイシズのダグ・ギラードをフィーチャーし、ボブ・ディランからファウンテインズ・オブ・ウェインまでを手がけてきたクリス・ショウをプロデューサーに迎えて制作されている。中心人物マシュー・カーズが「このレコーディングは本当に楽しかった、今までで一番たっだよ」と語っているとおりの雰囲気が、スピーカーやヘッドフォンから伝わってくるようだ。

2012年はいい感じになるといいな...なんて思いつつ、年明け早々、マシューにスカイプで話を聞いてみた。


ニュー・アルバム、グレイトです! 新しい年の始まりに聴くのにふさわしい作品になっている気がします。これを聴いたときの第一印象は、ナダ・サーフ、いい意味で若返ってるんじゃない? というものだったからです。新生したというか?

マシュー・カーズ(以下M):そうだね。ぼくらにとっても、そんなふうに仕上がったアルバムに感じられるよ。年を若く見せようってことじゃないけど(笑)、昔ぼくらがスタジオで持っていたエネルギーみたいなものを、取り戻したいと思って作ったアルバムなんだ。そういうエネルギーから、しばらく遠ざかっていたような気がしたから。カヴァー・アルバム『If I Had A Hi-Fi』(2010年リリース。彼らが子どものころから愛聴していた曲から、ザ・ソフト・パックといった若いバンドの曲までを幅広くカヴァーしたもの)を作ったことが、すごくためになったと思う。...まあ、バカみたいなことなんだけど、「できあがってる曲をレコーディングするのって、すごく楽だな!」って気づいたんだよね(笑)。過去2、3枚のレコードって、全部スタジオに入ってから曲を作った。もちろん、そのやり方はそのやり方ですごくエキサイティングな部分があって楽しかったんだけど、実際かなりのストレスでもあった。バンドでライヴでプレイするような単純な楽しさっていうのは、なかったんだよ。だからそういう、演奏しているときからもう楽しい、みたいなエネルギーを取り入れたかったんだ。ここ2、3枚のアルバムを作っていたときは...研究所の科学者とまではいかないだろうけど、とにかく正確に細かなところまで神経を張りつめながら作ってたと思う。それからライヴに出て曲を何度もプレイしながらより深めていって、初めてすごく楽しいと思えるようになった。だからそれを、今回は最初からスタジオでやりたいなって思ってね。...まあ、実際は全部、ぼくのせいだったわけだけど。宿題を期日までに仕上げて提出できなかったのは、ぼくなんだ(笑)。たとえば、アイラは本当に最高のドラムをいつもライヴではたたいてくれるのに、レコーディングのときはそこまでのエネルギーを感じられないって思ってた。でもそれは結局、ぼくのせいだったんだよね。最高のプレイができるようになるには、体が自然に動くまでに、曲が体に染み付いてないと無理なんだよ。

そういうねらいの元に、今回のアルバムをリハーサル・スタジオでレコーディングしたんですか?

M:うん。ベーシック・トラックは数ブロックほど離れたぼくの練習スタジオで録って、それから戻ってきて完成させたりしたんだけど、前みたいにシアトルやサン・フランシスコに行って録音することはなかったね。前にそうした理由っていうのは、自分たちが普段住んでいるところにいると、どうしてもレコーディングに集中できないような日常の出来事に邪魔されてしまうんで、知らない街に行ってやりたいと思ったからなんだけど、今ではもう、シアトルやサン・フランシスコにも友達がたくさんできちゃった(笑)。だから、知らない街とはいえなくなってしまった。それに、機材をまとめて他の街まで行って、ちょっと一休みして体を慣らしてからスタジオに入ると、そこまでに時間がかかてるから、自分たちがどんな曲を作りたかったのか結構忘れちゃってて、最初からやり直したりして、時間のむだが多くなっちゃうんだよね。だから今回は、日曜日に最後のリハをして、徒歩でアンプを3ブロック転がしてヘッドギアってスタジオまで向かって、そこで5日かけて録音したらアンプを再び転がして帰って、オーヴァーダビングを終わらせて、おしまい、って速さだった。それに、決断をすごく速くすることができた。前は「このテイクでいいかな? ちょっとよくわからないから、1週間寝かせて来週決めよう」みたいな決め方をしていたけど、今回は5日ですべて終わらせようと思ってたから、「このテイクでいい? よくわからないなら、もう1回だ」って、即決めて動いた。そういう勢いのあるエネルギーが今回のレコーディングにはあったと思う。アプローチ的にも感情的にも。それにある意味、いいレコードをむだなくスピーディーに仕上げるって、すごく大人になった証拠だとも思った(笑)。なんか、大人のやり方だよね。まあ、心はいつもヤングなスピリットにあふれてるけど、ぼくらだって、成長しなきゃね(笑)。フガジだって、何週間もスタジオに入って、この曲はこうしたほうがいい、ああしたほうがいいって、こねくり回したりしないと思うし。自分たちのやり方をちゃんとわかってるっていうか。それがいいんだよ。

前作には、ガイデッド・バイ・ヴォイシズのダグ・ギラードが参加していました。英語でHi-Fiというのはステレオ・セットのことであることは知っていつつも、いわゆる「ローファイ」の騎手と言われていたガイデッド・バイ・ヴォイシズのひとが『If I Had A Hi-Fi』に参加しているのもおもしろい(笑)とか思っていました。そして今回のアルバム、メインストリームのポップ・ミュージックと比べて音響的に遜色のないものであるという事実は明言しておきつつ、「ローファイ」というコンセプトのいい面が発揮されていると感じました。いかがでしょう?

M:ぼくのサン・フランシスコの友達のジョン・ヴァンダースライスは、ミッド・ファイや、スラッピー・ハイ・ファイ(汚らしいハイ・ファイ)の話をよくする(笑)。すごくいいマイクの前でおかしなことをすると、そういう音が録れるんだよ(笑)。まあ、そういう音を意識してねらったわけじゃないんだけどね。実際、これまでの数枚のアルバムって、あまりサウンドに対して口出しをしてないんだよ。(デス・キャブ・フォー・キューティーの)クリス・ウォラの音の美学はすごく気に入ってたし、ジョン・グッドマンソンもそう。ぼくらはただ、曲にだけ集中していられた。今回一緒に作業したのはクリス・ショウだけど、彼はこれまですごくいろんなタイプの仕事をしてきた人。パブリック・エネミー、ボブ・ディラン、ウィルコ、ファウテインズ・オブ・ウェイン...。ほんとに何でもやってきてる。ぼく自身、サウンドにこだわりがないわけじゃないけど、それで悩んだりするのはいやなんだ(笑)。ぼくが一番好きな時間って、完全に信頼できる凄腕のミックスエンジニアの隣に座って、彼の仕事ぶりを見たり聴いたりしてる時間なんだよ。ダグの話に戻るけど、彼が参加してくれたのは本当にすばらしかった。もともとぼくらは彼らのファンだったし、彼もぼくらのことを知っててくれたみたいなんだ。そんなある日(元ハスカー・ドゥーの)ボブ・モールドのショウを見にいった。ショウの後、友達のミュージシャン数人と話してたらそこにダグが半分酔っ払って現れて、「よう、もしジェームズ・ハニーマン=スコットみたいなギターがレコードで必要だったら、声かけてくれ」って突然言ったんだよ。わあ、そいつは最高だね、って(笑)。ぼくももともと、ジェームズ・ハニーマン=スコットのギターのメロディが大好きだったし。それで前のアルバムでギターが必要になったとき、ダグを呼んで3曲ギターを入れてもらったんだ。それが曲のすごく重要なパートになったんで、彼抜きでツアーができなくなってしまった。そして今回のアルバムでも、彼がアルバム中でギターを弾いてくれている。それも今回、曲を書きやすかった要因のひとつ。なんていうか、ぼくがメロディーを作ってコードを作った以上に、彼のおかげで曲の次元が上がるってわかっていたから、より自信を持って曲作りを進めていくことができた。本当にラッキーだったと思うよ。

今回のアルバムにも彼参加してるんですよね。

M:うん、全曲で。

ほかにゲストはいますか?

M:基本的にはぼくら3人に、ダグが全曲ギターで参加してくれたのと、ぼくらのバンドで時々キーボードを入れてくれているジョン・マゲンティー、それにキャレキシコのマーティン・ウェンクがホルンを、それにシアトルのフィル・ピーターソンがチェロを弾いてくれている。

photo by Peter Ellenby
2012_01_nada_surf_A2_Peter_Ellenby.jpg先ほど、プロデューサーのクリス・ショウの話が出ましたよね。彼はあなたたちの曲のミックスを手がけたことがありますが、プロデューサーとして関わるのは初めてでしたっけ?

M:うん、そうだね。でも、彼の仕事ぶりって、本当にびっくりするようなものなんだ。セッションは昼から5時までってことになってる。なるべく全部セッションを聴きたいと思って、1時ぐらいにスタジオに入ると、なんだかもう、ほとんど終わっちゃってるんだよね。普通だったらそのぐらいの時間は、サンドイッチ買いに行こうかとか、コンプレッサーつながなきゃとか、そんな話してるぐらいの時間だと思うんだけど...。それで彼がぼくに言うんだよ。「曲はいい感じにできてるよ。ちょっとハーモニー足す?」え、もう? みたいな(笑)。その5分後にはマイクが立てられてて、ぼくもハーモニーを入れはじめる。それでその後4時間かけて、ハーモニーを練ったり曲を修正したりする。本当に仕事が速く進むから、びっくりした。曲をプレイしてコントロール・ルームに戻ってきてプレイバックを聴くときも、そこで「たった今プレイしたものだけど、後でもっとよく聴こえるようにするから」って感じじゃないんだ。もうすでに、魅力的に聴こえるサウンドになっている。スピーカーから音が元気にジャンプしてるようなサウンド、っていうか。彼と一緒に作業できたのは、本当にラッキーだった。もともとはエンジニアとしてだけ彼に参加してもらうつもりだったんだよ。でも、知らなかったんだけど、たとえば彼はものすごくギターもうまい。...実際、ぼくよりうまくて(笑)。ぼくがギターを弾いてると、「こんなふうにやってみれば」って、すごくいいアイディアまで出してくれたりね。それで結局、プロデュースまで任せることになっていったんだ。ハーモニーを作るときも、彼は両親がCSN&Yの大ファンだったから(笑)(編注:マシュー自身もCSN&YもしくはCSNのファン。それについては、『If I Had A Hi-Fi』リリース時のインタヴューからも、よくわかります:笑)、子供のころからハーモニーをものすごく聴いてきたハーモニー研究家みたいな人で、すごくいいハーモニーのアイディアを出してくれる。そういうことは、今までぜんぜん知らなかった。まあ、いい驚きだったけどね。彼はほんとに、音楽的な知識が豊富な人。これまでの人類の発明の中ですばらしかったものは、自転車と医者とクッキーとレコード・プロデューサーなんじゃないかな(笑)。

(笑)新作のアルバム・タイトル『The Stars Are Indifferent To Astronomy』は、あなたのお父さんの言葉からとられたものだそうですね。そして、あなたのお父さんが有名な哲学者であるということを今回初めて知りました! このタイトルをつけることに関して、たとえばティーンエイジャーのころは父親に対する反抗心もあってロックンロールを始めたけれど、今はそれを乗りこえた...みたいなストーリーを想像しましたが...、いかがでしょう(笑)?

M:残念なんだけど、ぼくとぼくの父はずっとすごくいい関係なんだよね...(笑)。これまで本気で怒られたことは、2回ぐらいかな...。彼は哲学者なんだけど、科学者でもある。物理学の学位も持っているから。正直、家族のなかでぼくだけが足を引っぱってるっていうか(笑)。母も教授だし、姉妹もハーバードを出て、今は図書館司書をやってる。ぼくだけが落ちこぼれ(笑)。とにかく、この言葉は父が授業中に何度か生徒のみんなに言った言葉なんだ。こんな感じ。「鳥は自分が鳥と呼ばれていることを知らず、犬は自分が犬と呼ばれていることを知らない。星も、自分たちに名前がついていることを知らない。気にしたりしない」この言葉から、いろんなインスピレーションを受けたんだ。たとえば、地球の気候変化の影響なんかもそのひとつ。目に見えない、何か巨大な変化が起ころうとしているような。大企業はそれを変える力を持っていても、工場の運営方法を変えなかったり...。地球全体の気候は、一人ひとりの信念や想いには関係なく、明らかにおかしくなってきている。チョイスの余地がなくなってきている。でも、それを変えようとしたり、疑問に思ったりしないのって、何でなのかな...って...。まあ...ちょっと愚痴っぽい話になっちゃったね。ごめんね(笑)。とにかく、そんな想いもタイトルのアイディアのなかにはあったんだよ。おかしいんだけど、彼が昔この言葉を言ったことは記憶のどこかにあったんだ。でも、それを思い出したのは、父のツイッターなんだよ。父がツイッターをはじめてさ(笑)。まあ、100ぐらいしかまだつぶやいてないけど、そのひとつがこの言葉だったんだ。それを見て、「ああ、そうだよ!」って思い出して(笑)。今まで忘れてた。君と今話してて思い出したよ。そうそう。あの言葉を思い出したのは、ツイッターだった(笑)。

そうなんですね! 『The Stars Are Indifferent To Astronomy』という言葉からは、実にさまざまなイマジネーションが広がります。「実際の星々の在り方は、天文学で規定されているものとは異なる」というストレートな読み方から、「ぼくらは、評論家や批評家が決めた『スターたち』とは違う、ぼくら自身のスターを持っている」という、ある意味、すごく現代的な解釈まで。さらに後者を発展させると、キンクスやスライ&ザ・ファミリー・ストーンが60〜70年代に言っていた「誰もがスターだ(Everybady is a star)」というコンセプトにもつながってきたり...。いかがでしょう?

M:うん、すごく面白いね。ぼくは人のいろんな解釈を聞くのが大好きだから、面白かった(笑)。(質問作成者の)伊藤さんにはもっといろんな解釈をして、教えてもらいたいな。

(笑)アルバムに「When I Was Young」「Teenage Dreams」という曲が入っています。それらは、どんなことについて歌われていますか?

M:「When I Was Young」はふたつのパートに分けられると思うんだけど、実は7年ぐらい抱えたままの曲だったんだ。パートのひとつの部分は前から気に入っていて、ずっとどうにかして使いたいと思ってたんだけど、なかなか繋がらなくて。そんななか去年、古いイングリッシュ・フォークソングが気に入って聴きこむようになった。去年亡くなったけどバート・ヤンシュとか。ディヴィ・グレアムとか。おととしぐらいは、エリザベス・コットンが気に入って聴いてた。アメリカのブルーズ・ギター・プレイヤーだけど。とにかく、フィンガー・ピッキングのやり方を覚えたかったんだよね。あまり上手にできないでいたから。それで最初の4コードの部分を何週間も何週間も弾きながら練習してた。最初は正直、難しかったね。やっとうまく弾けるようになったけど(笑)。そうやって何度も弾きながら瞑想してるような状態になっていたとき、ふっと、ずっと繋がらないでいたパートと今弾いてる部分がうまく繋がるんじゃないかってひらめいたんだ。曲の内容に関しては、子供のころって、別に意識してそうしようと思わなくても、こうなったらいいなとか、いつかこうしてやろうと思ったりすることがあったってこと。アイルランドのショート・フィルムのフェスで見た映画にも、こういうものがあった。ある男の子が両親に、自分がゲイだってカミングアウトしようとする。美しい朝、ぴかぴかのキッチン、愛情深いママ。そこで彼女に自分がゲイだと告げると、彼女が「本当に正直に伝えてくれてありがとう。あなたが自分の生き方を見つけられて、よかったわ」って励ましてくれる。小鳥がさえずって、美しい森が見えて...って世界が一変、現実に戻る。汚れて散らかったリビングに、ソファの上で酒を呑みながらタバコを吸っているだらしない両親。今彼は現実世界に戻ってきた(笑)。それで両親に自分がゲイだって言うんだけど、ものすごくひどい目にあわされる。まあ、それが直接曲に関係してるわけじゃないけど、そういうアイディアっていうのかな。いろんなことを想像して、そこから現実に帰ってきたときのことっていうか。実際、毎朝目を覚ますたび、ぼくはほとんどショックといってもいいような感覚を覚える。ぼくは世界中のどこにいてもいいはずなのに、ここにいるんだなあ、って(笑)。今よりももっと素晴らしい世界かもしれないし、もっとひどい世界かもしれない。それがある意味安堵でもあり、失望でもあるっていうような。70年代に両親がフランスに家を買ったときのことなんかも思い出すな。南仏に別荘っていったら聞こえはいいけど、2000ドルで水道も引かれてない、ほとんど山小屋みたいなところだった。まあ、実際はあまり素敵な話じゃない(笑)。そこからニュー・ヨークに帰ってきて...なんていうか、部屋は変わりなくいい匂いがしたけど、いない間の埃くささみたいなものを感じた瞬間みたいな感覚を、すごく強く覚えてたり...。そんなことがインスピレーションになってるんだよ。

なるほど。

「Teenage Dreams」はコンサートを見ていて...誰のかは忘れたんだけど...突然こみ上げてきた感覚について歌った曲。学生のときって、6月に夏休みが始まると、9月に学校が再開されるまでは永遠に遠い未来のことのように感じられた。そういうずっと楽しいことが続くような感覚っていうか。それで突然「ティーンエイジ・ドリームは決して終わらない」って感情があふれてきて、それをノートに走り書きしておいたんだ。可能性への希望みたいな感情? いくつになっても、誰でも何でもやり遂げられると思う。考えてみて。1日15分、毎日コツコツと同じことをやったら、1年でできないことなんか、あまりないよ(笑)。たとえば外国語とか。家具を組み立てるとか。油絵とか(笑)。なんでもさ。なんだって、やってみたらできるっていうような、ポジティヴな気持ち。

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「Jules And Jim」というのは架空の人物名ですよね?

M:あれはフランス映画のタイトルなんだよ(邦題『突然炎のごとく』)。三角関係の話。そういう関係に肉体的にはまったことはないけど、精神的にはなったことがある。それで3人、それぞれの立場や気持ちがわかってしまうっていうか。自分の気持ちまで(笑)。誰も間違ってはいないけど、誰もイノセントではない。そういう気持ちからあの曲は書いたんだよね。心が痛む話だけど。

「Clear Eye Clouded Mind」などという、ちょっと「疲れたおとな」を感じさせるフレーズのような気もする(笑)曲をアルバムの冒頭に持ってきたのは、なんかおもしろいと思いました。ネガティヴとまでは行かなくても、決してポジティヴでもない、この曲をオープニングに持ってきた理由は?

M:うん、言ってることはわかるよ(笑)。ネガティヴでもポジティヴでもなく、どっちかっていうとストーリー・テリング的な...。コーマック・マッカーシーの小説に、『ザ・ロード』って終末もののストーリーがあるんだけど、ぼくは今回のレコードで、失われつつある自然みたいなことをすごくたくさん考えたんだ。もちろん、未来に対してものすごく悲観してばかりってわけじゃない。今よりもっとよくなっていくものもたくさんあるだろう。でも同時に怖い。そういう終末的なインスピレーションから書かれたこの曲がアルバムのオープニングで、最後の「The Future」がより現実的なことを歌う曲で締めくくる形になってる。でも、そういうことって書いてる最中はものすごく意識してるものじゃないから...いや、意識してる場合がないわけじゃないけど、この曲は別にすごくそういう計算をしながら書いたってわけじゃないから、これ以上うまく解説できないかな(笑)。ただ自分のイマジネーションの世界を旅した結果、っていうか。

次は「The Future」についても訊きたいって思ってたんですよ(笑)。この曲も、「The Future」って明るい未来なのか、暗い未来なのか、どっちとも取れるような曲だったので。そういう曲を最初と最後に持ってきたっていうのは、意図的だったのかな、と。

M:おかしいんだけど、そういうテーマを持って曲順を決めたわけじゃなく、曲のエネルギーっていうか、雰囲気として、勢いがあるからオープニングにいいかな、最後はこれかな、って決めただけだった。それでインタヴューをはじめると、そういうことを指摘されて、自分でびっくりする。別なジャーナリストに、最初と最後が繋がって輪になってつながるようなイメージになるといわれた。そういうのを計算してやったって言えたらいいんだけど、実際は考えてなかった(笑)。

わたしたち日本人は...と一般化してしまうと気持ち悪いので、質問作成者は...という形で限定しますが、2011年は彼にとって正直かなりヘヴィーな年でした。40代後半の彼にとって子どものころ最も怖いことのひとつが核戦争だったんですが、ある意味それと同じくらい「人間のよくないところ」が出ている原発事故が身近な日本で起きてしまい、いったい自分はなにをやっているんだろう? という悩みが激しくなって、あまり仕事も進みませんでした。編集者/音楽評論家として最も尊敬する70代の大先輩も自殺してしまうし...。それはそれとして、やはり未来へ進みたいという気持ちが、年も改まってより強くなっています。そんな状況で聴いた「The Future」に、伊藤さんはすごく勇気付けられたそうです。

M:すごくうれしいね。そういうことを聞ける、すごくハッピーだよ。ぼくには今、7歳の息子がいる。彼が生まれるまでは、古いレコードと自分の美学と一緒に、自分の世界だけに閉じこもっていられたらいいと思っていた。でも彼が生まれて、すごく現実的な世界のことを考えはじめるようになった。別に自分が何か建設的なことをすでにやっているってことではないかもしれないけど、少なくともしっかりと目を開けて、何が世界で起こっているかを見ていようと思っている。ちょっと怖い部分もあるけどね(笑)。でも、世界や未来が怖くなかったことなんて、今までもなかったと思うんだ。能力のある人たちがいて、いい意図を持っていたとしても、どうなるかわからないってことは怖い。でも、ぼくは未来には希望を持っているよ。だけど今は本当におかしな時代だってことも事実だと思う。

ですよね! こんな感じで、ここまでいろんなことを話してきましたが、とにかくこのアルバムには、素晴らしい「音楽の魔法」がいっぱいつまっていると思います。こんな意見について、どう思いますか?

M:ビューティフルだね。ぼくら自身が魔法を作り上げてるってことじゃないかもしれないけど、音楽そのものには本当に魔法があると思うんだ。曲を書きはじめる種みたいなものは、たとえば恐れだったり、恥ずかしい気持ちだったり、どうにもならない状況だったりする。でも曲を作っていく過程で、そこにメロディーやコードを見つけてハーモニーをつけてっていう旅をしていくうちに、本当に素晴らしい気分になっていく。たとえ曲のなかで歌われている内容が明るいものでなかったとしても、すごくハッピーになれるんだ。そういう魔法を感じてもらえたら、すごくうれしいね。ぼく自身、自分がミュージシャンになる前はただの音楽ファンで、何千枚ものレコードのなかにそういう魔法を見つけてきた。ぼくは昔、投資銀行でコンピューターの仕事をしてたことがあるんだよ。給料はよかったけど、ものすごくきつい仕事だった。ものすごく疲れてさ。ヘッドフォンをして音楽を聴いていてもよかったんだけど、あるときはニール・ヤングの「Cortez The Killer」を4時間エンドレスで聴いてたこともあった。もう、本当に、銀行以外の世界にいたいと思ってたんだよね(笑)。

2012年1月
質問作成、文/伊藤英嗣
取材、翻訳/中谷ななみ


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ナダ・サーフ
『ザ・スターズ・アー・インディファレント・トゥ・アストロノミー』
(Barsuk / Ki/oon)

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