FLOATING POINTS「Shadows」(Eglo)

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FLOATING POINTS.jpgのサムネール画像のサムネール画像  「ファンクの多大な要素と少なからず耳にできるほどのジャズ。808の音楽に最初に影響を及ぼしたのはエレクトロニクスやデトロイトだったかもしれないが、その先にはハービー・ハンコックやマイルス・デイヴィスの影すら見える」

 上記の一文は、メロディーメイカーが808ステイト『90』を評した際のものだが、本稿の主人公であるフローティング・ポインツことサム・シェパードに出会ったとき、この一文が頭に浮かんだ。「なぜ浮かんだのか?」と訊かれたら返答に四苦八苦しそうだが、おそらく、サムがマンチェスター出身であることが関係しているかもしれない(育ちはロンドンだそうだ)。

 筆者は「Vacuum EP」でフローティング・ポインツに出会った。そこで鳴らされていたのは、エレクトロニック・ミュージックでありながら、ジャズと邂逅し未知なる地平に視線が向けられている音楽だった。だが、《Ninja Tune》からザ・フローティング・ポインツ・アンサンブル名義でリリースされた音源には、過剰な実験精神という壁があり、この壁が、サムの音楽を少しばかり退屈なものにしていた。正直、サムに対し疑いの眼差しを向けたりもした。

 しかし、「Shadows」を聴いた後では、疑いを持ってしまった自分が恥ずかしい。そんな思いに駆られるほど、「Shadows」は最高傑作であり、甘美な温もりに満ちた狂気を展開している。

 「Shadows」は、アンビエントなプロダクションを採用しつつ、2ステップ/ガラージを基本としたビート、もちろん先述したジャズの要素もある。こうした横断性がもっとも顕著なのは、「Realise」だ。最初は2ステップでスタートしながら、中盤でいきなりビートがピタッと止む。この中盤以降は、ビート・ミュージックとアンビエントを行き来する目まぐるしい展開を見せるが、これは"抜き差し"といったレベルではなく、異なるパーツを入れかえ繋ぎあわせるというキチガイじみた"離れ業"と言えるものだ。この試みは、ヘタするとグルーヴの喪失を伴う実験だが、サムは見事にやってのけている。こうした実験は本作の随所で見られるが、「Realise」がその実験精神を象徴する曲なのは間違いない。

 また、サムはクラシック音楽にも精通しており、UCL(University College London)で神経科学の博士号取得に励んでいる身でもある。こうした背景が、サムの実験精神を育んでいるのは言うまでもないが、しかし、サムの音楽は、内省的世界観に陥ることはない。むしろ、聴き手を優しく包むようなアトモスフィアを形成している。聴き手を知性で"支配"できる音楽的教養がありながら、あえて感覚や温もりといった"心"を選ぶところに、サムの音楽を特別たらしめる秘密、そして、人間性が表れていると思う。このセンスと才能は、文字通り衝撃だ。

(近藤真弥)

 

 

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