BEAT CULTURE『Tokyo Dreamer』(Self Released)

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Beat Culture『Tokyo Dreamer』.jpg 何かの始まりを予感させる音楽は、いつの時代も美しいものだ。808ステイト「Pacifc State」、エイフェックス・ツイン「Xtal」、アーケイド・ファイア「Wake Up」などなど...。これらの音楽は、とてつもないパワーと最大瞬間風速でもって閉塞感を打ち消し、聴き手を導いてくれる。それはまるで、新たな創造のドキュメンタリーですらあるが、こうした音楽に出会った聴き手が"目撃者"となり、潮流の担い手となるのだ。


 そういう意味では、ビート・カルチャーを名乗るキムもまた、表現者として潮流を担っているひとりだ。様々な音楽が時を越え邂逅し交わる時代のなかで、キムは間違いなく驚きと興奮に満ちた音楽を鳴らしている。


 前作『Goldenbacked Weaver』のレビューでも述べたように、キムの音楽には過去の偉大な音楽の幻影が窺える。特に顕著な影響として表れているのはレイヴ、そして、90年代前半のテクノだろう。だがなによりも重要なのは、そうした過去の音楽と現在の音楽を接合し表現することで、見事なまでに新鮮な音楽を作りあげている点だ。ビートやプロダクションといった部分はもちろんのこと、テクノロジーのなかにソウルを落としこむあたりは間違いなくジェームズ・ブレイク以降の音である。謂わばキムは、ビート・カルチャーという"ハブ"となって様々な音を集め、それらをモダンにアップデイトし、独自の価値観を通して聴き手に届ける。


 また本作は、『From Here We Go Sublime』期のザ・フィールドに匹敵する高揚感も獲得している。それはおそらく、先日《Ninja Tune》からアルバムをリリースしたイパなどに顕著な、シューゲイズ・エレクトロニカの要素を前作以上に取りいれたからだろう。まあ、過去にもThe MFA「The Difference It Makes」が"シューゲイズ・ハウス"と形容されていたり、エレクトロニック・ミュージックにおけるシューゲイズが"斬新"と呼べるものではないのは確かだが、近年再び多くなっているし、このあたりの目配せもさすがといったところだ。さらに、昨今のインディーR&Bに接近した「Midori」といったチャレンジングなポップ・ソングもある。


 そしてもっとも注目すべきは、チルウェイヴの発展型として注目されているトリルウェイヴ/クラウド・ラップの要素がある点だ。このふたつは、ヒップホップのチョップド&スクリュードという手法に影響を受けたダウナーなチルウェイヴやウィッチ・ハウスを再びヒップホップが取りいれたことによって生まれた言葉だが、グルーヴやビートのタメに、トリルウェイヴ/クラウド・ラップの影響が窺える。筆者も最近になってトリルウェイヴ/クラウド・ラップを聴きあさっているから、深いことを言えないのは大変申し訳なく思うが、例えばオッド・フューチャーと比較されるアトランタのノーバディー・リアリー・ノウズ(Nobody Really Knows)周辺のビート感覚が、ビート・カルチャーの音楽にも及んでいるように聞こえるのだ。ついでに言及すれば、先日リリースされたSeiho『Mercury』のスペーシーなアトモスフィアも、トリルウェイヴ/クラウド・ラップと共振するように思えたし、もっと範囲を広げると、最近活発になってきている関西ビート・ミュージック・シーンにおいて、LAビート・ミュージックと並んでトリルウェイヴ/クラウド・ラップの影響もデカいのではないかと踏んでいる。


 話を戻そう。先述したように、本作は開放的なシューゲイズ・エレクトロニカが前面に出ており、ダウナーな雰囲気は微塵もない。だが、チルウェイヴに端を発したネットにおける音楽シーンの形成、拡大、そして瞬く間に全世界で共有されるスピード。こうした現代の音楽の在り方を象徴する様々な潮流が、『Tokyo Dreamer』の元に集っているような気がする。そう考えると、"ビート・カルチャー"の名も、あながち的外れではないのかもしれない。



(近藤真弥)

 

※本作はビート・カルチャーのバントキャンプからダウンロードできます。

 

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