ロシアン・レッド

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RUSSIAN RED

そう! わたしのなかには
いろんな音楽が入ってるの!


スペインのキュートな女の子が、ベル・アンド・セバスチャンのメンバーらと共に、グラスゴーでアルバムをレコーディング! この情報にいろめきたたないポップ・ファンはいないだろう(インディー的なものも嫌いではなく、むしろそれも好きであれば)。

そのアルバム『Fuerteventura(邦題:フエルテベントゥーラより愛をこめて)』は、日本でリリースされる直前、11月最終週からの日本の洋楽FMプレイ・チャートで、なんとトップを獲得してしまった。彼女の音楽のクオリティーの高さの証明と言えるだろう(基本的に、ある程度の投資がないと日本のFMでは曲がかかりづらい。にしても、お金だけでは絶対「1位」にはなれない。そこまで腐ってはない。たぶん:笑)。

さる10月後半、スペインの新人アーティスト・ショウケース・ライヴで演奏するために来日を果たしていた、ロシアン・レッドに話を聞いた。

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 そのショウケース・ライヴで彼女は、ポロックやパハロ・サンライズといった、日本のいわゆるインディー・ポップ・ファンに人気のあるひとたちと共演を果たした。

「みんな友だちみたいな感じ。ポロックのメンバーと最初に対バンしたのは3年くらい前だったかな。わたしを含み、わりと近い感じの音楽性を持ったバンドたちが偶然スペインから同じタイミングで出てきたってことで、こうやってみんなで日本にまで来れて、すごくエキサイティング!」

 日本デビュー盤『Fuerteventura(邦題:フエルテベントゥーラより愛をこめて)』の前作にあたるファースト・アルバムは、エウレカというスペインのインディー・レーベルからリリースされた。スペインといえば、90年代から、シエスタとかエレファントといったレーベルが日本のインディー・ポップ・ファンに人気があった。たとえばシエスタとか、知っているのだろうか?

「(すごくうれしそうに)もちろん! シエスタをやってるひとも、よく知ってる。あなたも彼の知りあいなの?」

 このノリだ(笑)。インディーというものには、いい面と悪い面と両方あると思うけれど、好きな音楽が共通していれば即座にみんな友だちだと思ってしまう...というノリは、明らかに前者。そして、これが前者なのか後者なのかはよくわからないけれど、インディー・ファンは、たいていオタクっぽいと言われる。ちなみに、エウレカから出た前作のタイトルは『I Love Your Glasses』。あなた(たち)のメガネが好き。ここ日本では「メガネ=オタクなひと」というイメージが、なくもないけれど...。

「それはスペインでも同じ(笑)。このタイトルをつけたのも、そういったニュアンスが出したかった。というか、実際ライヴをやりはじめたころ、お客さんにはメガネをかけてるひとたちが多かった。わたしは、まあ、そんなバックグラウンドから出てきたという感じかな(笑)」

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photo by Yoshika Horita

 セカンド・アルバムは、トニー・ドゥーガンをプロデューサーに迎え、グラスゴーで録音した。それは、やはり彼らの音楽が(そういった、オタク的なインディー・ファンと同じように:笑)好きだったから?

「そのとおり! できるかぎり自分が望む状況でレコーディングしたかったし、それにはトニーと組むのがいちばんだと思った」

 ベル・アンド・セバスチャンでいちばん好きなアルバムは?

「実は...わたし、彼らがエレクトロニックな感じになるときが好きなのよね。一般的なベル・アンド・セバスチャン・ファンとはちょっと違うかも...そして彼らの信奉者みたいなひとたちには『えっ?』と言われちゃうかもだけど、わたしがいちばん好きなのは『The Boy With Arab Strap』」

 グレイト! 実はぼくも彼らのエレクトロニック・パートが好き! だから、自分がいちばん好きなのは『Dear Catastrophe Waitress』だし、『The Boy With Arab Strap』にはその萌芽のような「Dirty Dream Number 2」(昔ぼくがDJやるときには必ずかけていた:笑)も入ってる! ...というか、『The Boy With Arab Strap』には「エレクトロニックな要素」がすごくうまく使われている。このアルバムで脱退し、よりエレクトロニックなルーパーというユニットを始めたストテュアート・デヴィッドの色がよく出ているとも感じられる。

 ただ、彼女は決してヘヴィーすぎるインディー・マニアというわけではない。たとえば、ファースト・アルバムではシンディー・ローパーもカヴァーしていた。


「そう。でもって、最近はライヴでボニー・タイラーなんかもカヴァーしてる(笑)。そういうことやるのは、ちょっとださい...わざとらしすぎるかな? とも思うんだけど、なにより、やっぱ、いい曲はいい曲だしね! わたしは50年代や60年代のものから、もっと最近の...たとえばスマッシング・パンプキンズみたいなバンドだって、いい曲ならなんでも聴く。音楽に貴賤はない(ミュージック・イズ・ミュージック)というか」

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 日本盤ボーナス・トラックには、クイーンの「We Will Rock You」のカヴァーも入っている。先ほど「ベル・アンド・セバスチャンのエレクトロニックな部分が好き」という発言があったけれど、ロシアン・レッドの音楽は基本的にアコースティックな肌触り(だから、たとえばベル・アンド・セバスチャンのアコースティックな部分が好きなひとには絶対お薦め、みたいな:笑)なのだが、日本盤の最後に入っているこの「We Will Rock You」だけは、素晴らしく(ぼくなどは、むしろポスト・パンクという言葉を使いたくなるほどに)エクスペリメンタル&エレクトロニック。

「そう! わたしのなかには、いろんな音楽が入ってるの!」

 そんななかで、まずはギター1本を手に歌う、というスタイルから始めたのは?

「音楽へのアクセス方法としてはまず手近なものだったし、ギターという楽器も好きだから。それでファースト・アルバムはそんな形をメインに作ってみたんだけど、セカンドでは、もっと(ほかの参加メンバーたちとの)レコーディング・プロセスをいろいろ試したり、学んだりしてみたかった」

 だからこそ、最も信頼できると彼女が思うひとにプロデュースを頼んだのだろう。

「(ボーナス・トラックの曲を除く)アルバムの基本的なセッションは、ほとんど(トニーの本拠地である)グラスゴーでやった。その音源をスペインに持ちかえって、仕上げをやったという感じ」

 アルバムの曲名のなかで、自分が最も好きなのは「I Hate You But I Love You」だと伝えると...。

「わたしも、この曲はとくに好き。タイトルに関しては、まあ、わたしはけっこうとっちらかってて、自己矛盾を起こしちゃたり...(笑)。昔はそんな感じだったけど、最近は少し落ちついてきたかな(笑)」

 アルバムには「Nick Drake」という曲も入っている。これは、もちろん、あの(若くして亡くなった70年代のシンガー・ソングライター)ニック・ドレイクのこと?

「もちろんそうだけど、歌詞の内容は彼や彼の曲とは関係ない。最初、自分のコンピューターでデモを作ったとき、ちょっとニック・ドレイクっぽいかな? と思って...」

 仮タイトルが、そのまま本タイトルになってしまったわけだ(笑)。

 この瞬間、ぼくの頭は90年代にタイム・スリップしてしまった。「グラスゴーの、インディー気質のバンド」という意味でベル・アンド・セバスチャンの先輩格にあたるティーンエイジ・ファンクラブは、かつて「Neil Jung(ニール・ユング)」という曲をやっている。当時彼らに取材したとき、ソングライターのノーマン・ブレイクはこう言っていた。「デモがニール・ヤング(の曲)っぽくてさ。それに(心理学者の)ユングの名前をくっつけてみた。それだけの意味しかないタイトルなんだけど(笑)」。同じアルバムには「Hardcore/Ballad」などという「誰がどう見ても仮タイトルが本タイトルになった」としか思えないタイトルの曲も入っていた(実際ノーマンも「当然そうだよ」と言ってた:笑)。

 それを彼女に伝えると、うれしそうに笑いながら...。


「そうなんだ(笑)。ティーンエイジ・ファンクラブって、トニー(・ドゥーガン)の仲間って感じだよね? 今回の参加メンバーって、トニーや(ベル・アンド・セバスチャンの)スティーヴィー(・ジャクソン)が友だちを集めてくれたんだけど、(ベル・アンド・セバスチャンの)ボブがベースを弾いてくれたり、(同)リチャードがドラムを叩いてくれたり...。そして、ティーンエイジ・ファンクラブでドラムを叩いたことがあるひともいたの! なんか、すごすぎる! って(笑)」

 彼が叩いたときの、リズム・トラック録りセッションに居あわせなかったのか、それがフランシス(オリジナル・メンバーで現在のドラマー)なのかポール(最も長いことティーンエイジ・ファンクラブでドラムを叩いていた)なのかブレンダン(ティーンエイジ・ファンクラブが、世界的に言えば最も「有名」だった『Bandwagonesque』期にドラムを叩いていた)なのかは憶えていないそうだが、それはすごい! と(「ベル・アンド・セバスチャン世代」というよりは「ティーンエイジ・ファンクラブ世代」である:笑)ぼくも素直に思った。

 そろそろ時間がなくなってきたので、最後の質問。ロシアン・レッドというアーティスト・ネームからは、ぼくのような年寄りは(?)どうしてもロシア共産党を思いだしてしまうのだが...。


「それは、別にかまわない。というか実際YouTubeで検索すると、最初はRussian Red Army Choir(ロシア赤軍聖歌隊)がまず出てきたりしちゃってたし!」

 そう言って、彼女はいたずらっぽく笑った。

2011年10月
取材、翻訳、文/伊藤英嗣

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ロシアン・レッド
『フエルテベントゥーラより愛をこめて』
(Octubre / Sony Music)

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