PINCH & SHACKLETON『Pinch & Shackleton』(Honest Jon's)

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PINCH & SHACKLETON.jpg  「ああああああああああああああああああああ」

 これ、文字数を埋めるためじゃないよ。ピンチとシャックルトンが作りあげたヤバいアルバム『Pinch & Shackleton』の感想だよ。正直、言葉にするのが嫌になる。だってさ、ミニマルで官能美すら感じさせるアルバムなんて、そうそうないよ? ここまで純度の高い音を言葉で表現するなんて、ほんと申し訳ない気持ちになる。ダブステップの異端児同士がタッグを組んだとか、ポンコツの安いスピーカーで聴いても凄さが伝わるとか、どんな言葉で本作を表現しても、ただただ自分が惨めになっていくだけ。それでも、より多くの人に聴いてもらいたいから、こうして長々と駄文を書いてる。というわけで、どうかお付き合いください。

 まず、冒頭の「ああああああああああああああああああああ」だけど、これはすぐ沈黙へと変わる。「Cracks In The Pleasuredome」で幕を開ける本作は、スタートして7秒くらいのところで、井戸の底から湧き出るような音が襲ってくるが、この音を耳にしてしまったら最後。霞みがかった秘境的世界観が、聴き手の五感を支配する。ベースよりも、音響やプロダクションにこだわった"チル"と呼べる曲が大半を占めているが、ガムランチックな音から始まり、多彩なリズムが次々と展開される「Jellybones」は、フロア映えするアグレッシブなトラックだ。実際フロアで聴く機会に恵まれたが、「Jellybones」の呪術的グルーヴが投下されると、クラウドは歓声をあげていた。

 しかし本作はなにより、丁寧なエフェクト使いに耳を奪われてしまう。このエフェクト使いを中心としたプロダクションは、本作においてもっとも優れた"売り"と言っていい部分であり、ディレイによる繊細なフレーズの変化など、エクスペリメンタルな音響処理が特徴的だ。こうしたこだわりは結果として、スピーカー、ヘッドフォン、ウォークマンなど、聴環境を問わないポリバレントな音に繋がっている。

 そして、音がリズムの役割を担っている点も見逃せない。これは先述のエフェクトによる効果はもちろんのこと、音自体が固有のリズムを刻んでおり、"どこでノルか?"はリスナーの感性に任されている。キックやハイハットも、ベロシティや丹念なイコライジングによって、リズムではなく旋律に変わる瞬間があったりと、すべての音が多面的に作られているが、本作においてリズムは、2人から提供されるものではなく、聴き手自ら見つけだすものとなっている。そういった意味で、本作は感覚的に捉えるべきであり、無意味の極地に漂うゴーストみたいなアルバムだ。

 まあ、だからこそ、本作を言葉で表現するのはイヤなんだよね。『Pinch & Shackleton』の前では、「それでも言語でやるしかない」という書き手の性なんて、無抵抗に跪くだけ。

(近藤真弥)

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