BROTHERTIGER『Golden Years』(Mush / Melting Bot)

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BROTHERTIGER.jpg 「80年代月9的胸熱合成大衆音楽」とは、よく考えたものだ! 僕は88年生まれだし、ブラザータイガーことジョン・ヤゴスのデビュー・アルバム『Golden Years』が月9的なのかは判断しかねるけど、「80年代」というのは的を得ている。確かに本作は、ペット・ショップ・ボーイズやティアーズ・フォー・フィアーズ、そして、ほんのわずかにプロパガンダの影がちらつくなど、ウォッシュド・アウトやアクティブ・チャイルドといったチルウェイヴ勢と比べるよりか、80年代ポップ・ミュージックを現代版にアップデイトした音楽として聴いたほうがしっくりくる。

 そもそもチルウェイヴは、名前に"ウェイヴ"とあるように、80年代ニュー・ウェイヴの要素が多分に含まれている。そしてチルウェイヴとは、2000年代前半のニュー・ウェイヴ・リヴァイヴァルから地続きの音楽性を発展させた、モダン・ポップ・ミュージックでもある。過剰なリバーブによる内省的なムードを、現代社会の閉塞感と関連づけて語ることはあっても、チルウェイヴの音そのものを語る機会は少なかったように思う。まあ、僕もトロピクスのレビューで、同時代性の観点からチルウェイヴを語っているから、人のことは言えないが...。

 本作は、そんな"音としてのチルウェイヴ"を明確にした良盤だと言える。冒頭の「80年代月9的胸熱合成大衆音楽」の「合成」に注目すれば、アンビエンスなシンセ・ワーク、煌びやかなネオンと薄暗い地下を行き来するようなディスコとエレクトロが基調となっており、これらをジョンが上手く料理することで、キュートなポップ・ソング集に仕上げている。様々な文化的背景を持つ音楽を「合成」し、その"「合成」自体を"ポップ・ミュージックに押し上げたのは、チルウェイヴがもたらした功績のひとつだ。

 また、自主制作のEP「Vision Tunnels」に収録され話題になった「Lovers」はもちろんのこと、トランスチックなイントロで始まる「Reach It All」や、『Sexor』期のティガと組んだような「Out Of Line」など、歌が音のカーテンに隠れがちなチルウェイヴとは違い、歌が光るのも本作の魅力だ。こうした点からも、本作をチルウェイヴと括るのはちょっと違和感を感じてしまう。これは、『James Blake』のレビューで吐露した、ジェームズ・ブレイクを"ダブステップの人"と呼ぶことに対する違和感と似ている。

 ドライブ、ベッドルーム、ダンスフロア、様々なシチュエーションで映える本作は、全方位型ポップ・ミュージックとして、小難しく考えずに楽しんだほうが良さを実感できるのかもしれない。

 

(近藤真弥)

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