ATLAS SOUND『Parallax』(4AD / Hostess)

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ATLAS SOUND.jpg わたしにとってディアハンターよりもアトラス・サウンドのほうが自分の生活にしっくりくるというか、普段聴いているポップ・ミュージックと同じ感覚で聴くことができる。もちろんディアハンターだって、いまのアメリカでは相当好きなバンドであることは間違いないけれど、ときどき救いのなさに聴いているこっちがどうして良いか分からなくなってしまう。アトラス・サウンドはもうすこしカジュアルだし、メロディにフォーカスしているし、ヴォーカルの印象も柔らかくて随分違う。おそらく彼(ブラッドフォード・コックス君です)自身、才能の発露を別の場所にも求めた結果だろう。

 ところでブラック・リップスのライヴ中、「Bad Kids」のときにステージ上で楽しそうに遊んでいる彼の姿がわたしの脳裏に焼き付いていて、その印象がそのままアトラス・サウンドなのだ。「まあ、適当にやっているから聴きたい人はこっちも聴いてよ」という雰囲気である。ただ、このアトラス・サウンドのアルバムが毎回高評価を得て、各メディアの年間ベスト・アルバムでもけっこう上位にランクインしている。みんなほっと一息つきたいときがあるのだ。最近ではアート性に優れた作品も多いし、フォーマットに縛られない自由な表現にはたしかに耳を奪われるが、生活に寄り添うオーソドックスなポップ・ミュージックもやっぱり最高だ。ぜんぜん病的じゃないし。

 わたしはアトラス・サウンドについての原稿や発言を目にするたびに、これってそんな小難しい音楽にしてしまわないほうが良いんじゃないですか、と思う。あるいはディアハンターならそのリリックやサウンドの真意に迫る文が必要だろう。異形を経て独自の境地に立ってみせたディアハンターというバンドは、そのくらいの理解の深さを以て聴くべきバンドなのかもしれない(もちろんそうでなくても構わない)。だが、アトラス・サウンドはもっと広義のポップ・ミュージックとして捉えたい。個人的には1曲目の「The Shakes」が一番好きな曲なのだが、このギターは毎朝聴きたくなるくらい爽やかな代物だし、次に好きな「Mona Lisa」という曲でも《いくつのファンタジーが漂流する銀河によって台無しになっただろう モナリザは君を虜にした》という示唆的な歌詞がトラヴィスをも彷彿とさせるスウィートなサウンドにのせて歌われる。みんな聴いてね。これは現代の息抜きミュージックと言ってしまっても良いと思うよ。

 

(長畑宏明)

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