THE KOOKS『Junk Of The Heart』(Toshiba EMI)

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TheKooks.jpg  これはデビュー当時、「肝心なときにあれが勃たなくてよ」と歌っていた天然パーマのヴォーカリスト擁するイギリスのポップ・バンドが、見事に極上のAORを奏でるまでに至った証のアルバム。そのデビュー・アルバムはイギリス国内だけで200万枚近く売れた。今回の新作は全英初登場10位ですこし苦しんでいるけれど、バンド勢が軒並み商業的不調の中、よくトップ10入りしたと思う。ヴォーカルのルークは同じナルシストでもレイザーライトのジョニーほど神経質ではなく、もうちょっとテイク・イット・イージーであんまり先のことを考えていない風(それで実際は詩人)なのが良い。今回のアルバムは性急にギターをかきならす種類の楽曲は一歩後退していて、バンドの理想的な成熟を堪能することができる。そう、「クークスがいないと生きていけない」とか、「彼らも頑張ったんだね」とか、そういう感情移入の仕方はぜんぜんない。何だったらしたり顔で「クークスは良いバンドだね、ふむふむ」なんて言っている奴は音楽的スノビズムの象徴くらいに思っていて嫌っていた。でも音楽って、ポップ・ソングって、何が素晴らしいかというと、別になくても生きていけるし、でもそんなものに夢中になって、ときには涙まで流してしまうから。自分の生活に彩りが増したことに気付く瞬間に、音楽を聴く意味があると言っても個人的には過言ではない。もちろん切実な想いで聴く音楽も存在するけれど。

「Is It Me」の間奏パートのギターとそれを必死に追いかけるようにして刻まれるベースのフレーズ(この曲のチャート・アクションは散々だった。ほんとうにギター・バンドは厳しい...)。「Junk Of The Heart(Happy)」の気だるい風に歌われる「君を幸せにしたんだ」というコーラス。このアルバムにはそういう称賛されるべきパートが散りばめられているので、ちょっと落ち着いて孤独を思い知らされるような気分のときに、何となく耳を傾けたい。そしてもちろん名作である。

(長畑宏明)

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