The Field 『Looping State Of Mind』(Kompakt / Octave Lab)

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The Field.jpg  前作『Yesterday And Today』は、賛否が分かれる作品だった。優しさが込められた硬質なリズム、魅惑的なヴォイス・サンプル、アンビエントやシューゲイザーが散りばめられた美しくも儚いテクノ、これらの要素が生み出す唯一無二なトランス感を携えたファースト・アルバム『From Here We Go Sublime』に比べると、多くの人にとって重要作と呼べるものではなかった。その原因として挙げられるのは、中途半端なクラウト・ロックを取り入れたことによる、トランス感や恍惚的なグルーヴの後退だろう。新たな創作に向かうチャレンジ精神が先走り、聴き手に対する配慮も欠けていた。駄作とは言わないが、自らの音楽に没頭するあまり、内省的でハッキリとしない宙ぶらりんな作品になってしまったのは否めない。しかし、本当の才人は過去も改変できるようだ。

 ザ・フィールドことアクセル・ウィルナーによるサード・アルバム『Looping State Of Mind』は、前作で果たせなかったことを見事に達成している。前作に引き続きクラウト・ロックを取り入れているが、きめ細やかなニュアンスとヒプノティックな要素を混ぜることで、独特な雰囲気を醸し出している。この雰囲気はチルウェイヴに通じるものだが、一番印象に残るのはやはり、以前同様ループだ。本作でループが担っている役割は、ウィルナーが音楽を通してリスナーに近づくための手助けだ。彼の頭の中にある考えと聴き手を取り持つ、謂わば仲介者として機能している。このループは面白いことに、リカルド・ヴィロラボス「Fizheuer Zieheuer」ほどではないにせよ、それぞれのループは起伏が乏しいノイズに近いものとなっている。しかし、複数のループが合わさり"曲"になった途端、散文的なそれらは、感情豊かな一体感を生み出している。『Looping State Of Mind』でウィルナーは、音と音の繋がりによってグルーヴを生み出し、それを感覚的にリスナーへ届けることに成功している。この成功は同時に、前作の意図を紐解く鍵として機能し、『Yesterday And Today』を"クールな失敗作"へと変貌させている。

 そしてなにより、本作でウィルナーが開花させた知性を称賛すべきだろう。『Yesterday And Today』でも、音楽的教養という"筋力"は窺えたが、その"筋力"にウィルナーの人格は宿っていなかったし、曲に対する理解も聴き手に依存しすぎていて、頭でっかちなものだった。だが本作でのウィルナーはインスピレーションに忠実で、説明しすぎていない。自らの創作に妥協せず、より多くの人に届けるためのアイディアがいくつも存在する。

 知識を駆使した『Yesterday And Today』も悪くないが、孤立したその知識は、共有されにくいものだった。しかし、『Looping State Of Mind』に孤立は存在しない。孤立した知識を分かりやすく伝えるという真っ当な知性が、本作を名盤の域に押し上げている。

(近藤真弥)


※国内盤は10月19日リリース予定。

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