ワールドスタンダード『みんなおやすみ』(Stella)

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WorldStandard.jpg  結成28年目にして10枚目となる本盤も、彼らが細野晴臣プロデュースでデビューした時から変わらない、無国籍なスロウ・ミュージックがプロフェッショナルな演奏家達によって奏でられている。全14曲の内、ほとんどの楽曲が中心人物の鈴木惣一朗によって手掛けられており、神田智子による唄が7曲の中に織り込まれている。近年、他のアーティストのサポート・メンバーやプロデュースなどにばかり活躍の目が向けられていた鈴木惣一朗であるが、今年は《Stella》という新たなレーベルを設立させ、今後、彼自身の活動が更に飛躍するであろうという期待を匂わせつつある。『おひるねおんがく』『おやすみおんがく』という二枚のコンピレーション・アルバムを《Stella》からリリースした後、本盤はレーベルでの3枚目の作品として着実に仕上げて来た。

 ギター、アコーディオン、バンジョー、スティール・ギター、ヴァイオリン、クラリネット、トイ・ピアノ等、ほぼアコースティックな楽器編成と、豪華なメンバーによる演奏が、リビング・ルームでこぢんまりと録音されており、その上質さは朴訥さで程好く包み込まれている。ほとんど職人芸であるが、本盤も、まるで自分一人のために唄ってくれているような居心地の良さ、肌触りの良さを味わえる。

 今年、もう何度も耳にした「東日本大震災を経て制作された」というフレーズは、当然本盤にも合致する。この一文があるだけで、何かそのアルバムに神秘的で良心的な価値と、時として陰鬱さや重厚さといった価値が付与されてしまっていた気がする。そして、あたかも深遠で特別な価値があるものと見なされ、「面と向かって聴かねばならない、大切なメッセージの込められた音楽である」という不透明で危うい責任を強要する文章を、何度か目の当たりにした。このアルバムのタイトルが『みんなおやすみ』なんてものだから、東日本大震災と関連付けられる文章がTwitterあたりで散見されることは容易に想像できる。

 本盤にはそういった余計な要素を持ち込まないでほしい。これは逃避のための「おやすみ」ではない。ワールドスタンダードの短い歌詞の中で伝えられていることは、窓の向こうで雪が降り、知らない街にも灯りが灯り始め、愛のあるこの世界は素晴らしく、眠り、目覚めればまた日の光―ということだけである。邪推も憶測も不要である。優しく爪弾かれる「きらきらぼし」にきな臭い世間体を持ち込むべきではないと思う。

 最後は「みんなおやすみ」と、余韻も残さず、静寂さを纏ったままにフェード・アウトしていく。はっと気付けばアルバムが終わっており、アルバムをもう一周する頃には、大人も子供もゆったりとした眠りへ誘ってくれる。『花音』にも匹敵する名盤。

(楓屋)

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