SPACE DIMENSION CONTROLLER「The Pathway To Tiraquon6」(R&S)

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SpaceDimensionController.jpg  いまやあなたは、流れてくる情報に対して返事をするしか能がない脊髄反射の塊になってしまった。ツイッターのタイムラインに反応し、自らの意見を主張したつもりになっている多くの者達。それらはすべて、誰かの意図に乗せられているだけの虚しい叫びに過ぎないとしたら・・・と、ずいぶん脅迫的な書き出しになってしまったけど、「The Pathway To Tiraquon6」の物語に入り込んでしまったら、それも無理はないということだ。

 本作は、来年リリース予定のデビュー・アルバムの前編にあたるそうだが、これは間違いだ。というのも、スペース・ディメンション・コントローラーことジャック・ハミルは、ネットレーベル《Acroplane》から『Unidentified Flying Oscillator』をリリースしている。初期エイフェックス・ツインやLFOの影響を窺わせるスペーシー・サウンドが特徴的なこのエレクトロ・アルバムは、《Acroplane》のサイトでフリー・ダウンロード可能なので、ぜひ聴いてみてほしい。

 さて、話を「The Pathway To Tiraquon6」に戻すとしよう。本作は、壮大な物語を描いたSF作品と言っていいだろう。ごちゃごちゃ説明するよりも、プレス・リリースに書かれている長文のほうがジャックの物語を伝えられそうだし、そのまま引用させてもらう。以下はプレス・リリースからの引用である。

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《これは、the Pathway to Tiraquon6(Tiraquan6への道・経路)の物語である。

西暦2257年、地球という惑星は、Pulsoviansという名で知られるエイリアンに侵略される。敵意剥き出しのエイリアンと遭遇するなんてまったく予想していなかった人類は、ここまでのスケールの攻撃に対する準備など全くできていなかった。

独自のテクノロジーを使い、エイリアン達は太陽エネルギーを吸い取り、この徐々に廃墟となっていく星で生きるための選択肢として、彼らは人類に、彼らの住む惑星Cosmo30で人間が奴隷のように働くという条件を出してきた。

人々の殆どがそのオファーを承諾したにも関わらず、そこには、地球から逃げ出し、宇宙の奥深くのどこかに新しい居場所を見つけようとした人々による小さな連合が存在した。彼らが脱出しようとしていたその時、PulsovianのリーダーであるXymah the Usurperが逃げ出すための船を不意打ちで襲ってきたが、多くの船がその攻撃から逃れることに成功し、宇宙の果てへと危険な旅に出発。その他の船は破壊され、地球の大統領と彼の官僚たちの船も破壊されてしまった。

何年もの間、生き残り自由の身となった人々は、政府も階級も、希望も存在しない宇宙の奥深くへ引きこもった。しかし、保安官であるMax Tiraquonが、人間が住むのに相応しい惑星を見つけるため、近隣の銀河系を独りで旅する任務を授かる。が、彼が探索を初めて1年後、彼のエレクトロポッドとの通信が途絶えてしまい、彼は宇宙のどこかに流されてしまったのだと誰もが思っていた。

それから数年後、正体不明の宇宙船がメインの大型船のレーダーで発見された。それはMaxだった。彼は、彼のエレクトロポッドの後ろに残された、蛍光を放つ小道を手がかりに船へと戻ってきたのである。帰還した彼は、空間格子Mikrosector-50に、地球と似た環境を持つ惑星が存在することを人々に伝えた。人間たちは直ちにその惑星へと向うコースを設定し、着陸すると同時に新しい住居を建てる計画を練り始める。Maxは、Tiraquon安全保障理事会を設立。家々の建設がTiraquonセキュリティ・バリア上で開始され、Mr. 8040と名づけられた兵士がそのバリアのパトロールに任命される。Mr. 8040は、スペース・ディメンション・コントローラー代理となり、その後、Mikrosector-50の建設中、何年にも渡り、うまく治安を維持し続けていた。ところがある日、バリアのQuandrasectorの中のライト・ビームを修理していたとき、Mr. 8040のエレクトロポッドの大部分がビームの中に叩きつけられてしまった。死を避けるため、Mr. 8040は、彼のエレクトロポッドのミクロン粒子加速器を全開にする。しかし、なんとそれが彼を2009年にタイムスリップさせてしまい... 》

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 といった具合だ。フィリップ・K・ディック顔負けなSF的設定は、物語や神話に対するアレルギーが色濃く残る現代において、時代錯誤に見える大仰なものかもしれない。しかし、それでも本作をスルーできなかったのは、クラフトワークを哲学として捉えた音を鳴らし、それを"テクノ"と呼んだホワン・アトキンスから続くテクノの歴史に連なる音楽だからだ。ホワン・アトキンスはもちろんのこと、前述したエイフェックス・ツインやLFO、デリック・メイ、ジェフ・ミルズ、808ステイトまで、数えだしたらキリがないほど多くの影がちらつく。だが、これら過去的要素はすべて現代仕様にアップデイトされ、モダンな音楽を生み出している。特に「Flight Of The Escape Vessels」「Max Tiraquon」は、ダブステップ以降の現代的なビート感覚と過去の歴史を接合した、究極のハイブリット・ミュージックとして高らかに鳴っている。

 そして、本作の物語についても言及しなければならないだろう。こうした壮大なコンセプトはジェフ・ミルズが得意とする手法で、哲学としてのテクノを標榜しているのも共通するが、ジャック・ハミルのそれは、現実を意識した非現実的世界だ。ジェフ・ミルズは圧倒的な状況と理論によって、聴き手を別の世界になかば隔離してから征服する。しかしジャックは、状況こそ作りあげるが、あくまで人類の視点から状況を描いている。"エイリアン"なんて言葉を対象物に選んでまで人類という存在を強調するのは、我々がもっとも多く接する生物であろう"人"を、聴き手の頭にすり込むためだと推察できる。このすり込みによって、聴き手は"日常"という現実を片隅に置かざるをえない。

 いままで述べてきたことを踏まえて考えれば、ジャック・ハミルは音楽に想像力(であり創造力)を取り戻そうしていることがわかる。すでに"価値"が定められたものを自動的に受け止めがちな現代において、あくまで自分の内面を出発点とした能動的表現方法は、ジャックなりの現代社会に対する抵抗ではないだろうか? ジャックもまた、想像力によって厳しいこの世界を乗り越えようとするひとりなのだろう。全11曲47分、EPと呼ぶには濃密な「The Pathway To Tiraquon6」を聴くと、そんな気がしてならない。

(近藤真弥)

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