MOOMIN『The Story About You』(Smallville / Octave-Lab)

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Moomin.jpg  ドイツにおけるディープ・ハウス・リヴァイヴァルは、主にベルリンの《White》や《Aim》、それからハンブルクを拠点とする《Smallville》が興味深い動きをみせている。そして、そのうちのひとつ《Smallville》からデビュー・アルバムをリリースするのが、ムーミンことセバスチャン・ゲンズだ。

 彼は、前述した3つのレーベルからシングルを発表している。まさにシーンを代表するアーティストといえるが、ロマーン・フリューゲル『Fatty Folders』にも通じる、美しい流麗なミニマル・サウンドが『The Story About You』の特徴だ。海の波音からはじまり、徐々にキックがフェード・インしてくる「Doobiest」から「Sundaymoon」まで、ひとつの物語のように曲が紡がれていく。

 また、昨今のソフト・シンセ中心の音作りとは違い、ヴィンテージ機材が持つ個性的な音を巧みに使いこなしているのも素晴らしい。特に606、808、909といったダンス・ミュージックの定番ドラムマシンを使用したシンプルながらも綿密なビートは、4つ打ちが持つ快楽的な心地良さを存分に伝えてくれる。ラスティーのように、あえてソフト・シンセであることを強調したきらびやかなサウンドは、同時代性を含んだ"今"の音として興味深いが、ムーミンのハードにこだわったフェティシズム的サウンドも、抗いがたい魅力を放っている。

 故・中村とうようさんの「時間とは関係なくフレッシュな感銘を与えてくれる音楽こそ"新しい"音楽であり、それが自分にとっての未来なのだ」に従えば、ムーミンの音楽は"新しい"音楽といえる。今までになかったものではないし、むしろ原点回帰な音楽をムーミンは鳴らしているが、作ることを楽しむ姿が刻まれたサウンドは音数の少なさを感じさせず、多面的に感情が表現されている。原点回帰という意味では、USディープ・ハウスを漁り"知識"を得たうえで楽しむのもいいが、それよりも自らの感性を信じ身を任せることで真価を発揮するアルバム、それが『The Story About You』だ。

(近藤真弥)

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