MAMA! MILK 『Nude』 (Wind Bell)

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Mama!milk『Nude』.jpg  鑑みるに、故・ピエール・シェフェールが考えあげた思考の"外部"に音楽があり、システム系を解体しようとする試みの歴史とは如何せん、傍流だったのかもしれない。RECから再生へ至る過程内に潜む音楽そのものの鳴りだけではない可能性を模索していた中で、彼は「12音の現代音楽に辟易していた。」と晩年のインタビューで語っていたように、前衛・革新性とは今は単純な、語られるべき言葉に過ぎないのか、近年、クラシカルな記号化をなぞる音楽の一つの流れが「決められた、偶発」に巻き戻されてしまうのは何故なのか、考えることがある。

  そこで、この10年代で再び、ポップに音楽として「語る」ためにはRECから再生の中にこそ含まれる体温や気配が大事になってくるような気もしてくる。だからこそ、自覚的になっているアーティストたちは、勇猛果敢にヴァン・ダイク・パークス『ソング・サイクル』のような循環構造の中で、出来る限り外とのジョイント、拓けようという実験を試み、ライヴ・パフォーマンスの場所もときにカテドラルやテンプルを選ぶというのも複合的な意味での正しさを含んでくる。つまり、新しさを求めるために、共通言語内で語られていた現代音楽を何らかの既存のジャーナリズムや歴史文脈を通じて、「翻訳」される時代は終わったとしたのならば、無限に検索すれば溢れ出る情報の波から音楽を逆説的に自己内感性でシステマティックに区切ってしまうことにもなる。しかし、そのジレンマが良い、と言えるだけの余裕があるほど、「"私"の音」に対して聴き手は自覚的になっていられるのか、疑問にも思えてもしまう。匿名署名であるほど、その音は自明になってくる余地があるからだ。

  キャリアも長くなり、個人活動も盛んな京都を拠点とするMama!milkの7枚目となる新しいアルバム『Nude』は、その意味ではRECから再生の間に含まれる、アルバムタイトル通りの"裸"の火照りを感じさせる内容になった。元・デタミネーションズのトロンボーン奏者の市原大資氏、リトル・クリーチャーズのドラマー栗原務氏を加えたクァルテット・スタイルでの東京のLIFTというギャラリーにおけるライヴ録音盤。選曲としても、旧作から、新曲、ふと挟まれるバッハの曲を含め、彼らの現在進行形の姿と総括的な意志を見せたものになっている。穏やかながらも、凛とした佇まいを保つ彼らの音楽は時折、ミシェル・ルグランやアストル・ピアソラ、エンニオ・モリコーネのサウンドトラックの一部に見受けられるようなジェントルな馨りを纏いながらも、昨今、隆盛するポスト・クラシカルと呼ばれる音楽との共振を感じさせる。

  但し、この作品では、どちらかというと、ポスト・クラシカルといったカテゴリー内でのアーティストの音がどうにも匿名的に、尚且つ、署名が見えない音になってしまう傾向が多いのと比して、Mama!milkの試行の歴史が重ねられた結実としての確かな「"私"の音」が聴こえる。全体を通じて、艶めかしく各楽器が絡み合ってゆくアンサンブルには例えば、優雅な野蛮と呼べるものを感じることもできるし、表題曲「Nude」を軸にした変奏曲群、「Nude Var.1」、「Nude Var.2」、「Nude Var.3」では特に性急でジャジーなグルーヴがあり、「an ode in march」にはホープフルな音の連なりが耀き、「the moon on the mist」での寄せては返すような音の漣も美しい。加え、ライヴ録音という性格からか、確かな息遣いとともに、現場でのインスピレーションに依拠した機転も伺え、彼らがインタビューで触れていた「生々しさ」、「刹那の瞬発力」という言葉も納得できる、ふと既存のレールを外れるときに帯びる危うさにこそ、魅力がある作品ともいえる。彼らの音楽はときに架空映画のサウンドトラック、環境音楽的でディーセントなものとしての捉えられている部分もあるが、清水恒輔氏のコントラバスのディープな響き、生駒祐子女史のアコーディオンの伸びやかな奏でには、最初から翻訳され得ない現代音楽の体系を抜け出るものがある。そこを抜け出た「会場」にはライヴ・ハウスだけではなく、過去に彼らが実演の場として巡ってきた客船、旧き劇場、寺院、美術館、喫茶店など、普通に生活を紡ぐあらゆる人たちの息吹が集う場所が浮かんで見える。ノマドにフレキシブルに自分たちの音楽スタイルを堅守してきた彼らがこういった形で続き、しっかり3.11以降の中での音楽の響きを再確認するように、このような音をパッケージングしたという姿勢には喝采をおくりたい。

(松浦達)

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