JONAS BJERRE 『Songs And Music From The Movie Skyscraper』(A:larm Music / Pluk)

|

Jonas Bjerre.jpg チェコの映画祭にもノミネートされたデンマーク発話題のフィルム、スカイスクレイパー(現地ではSkyskraberと書くらしい)。このサントラを手がけたのは、2007年から拠点を英国ロンドンからデンマークのコペンハーゲンに移したミュー(Mew)のフロントマン、ヨーナス・ビエールだ。初のスコアとなる今回の作品は、インストゥルメンタルと、普段シンガーとして活躍している彼の魅力的な歌声とが存分に聴ける作品となっており、日本語に翻訳されているものはないようなのでフィルムの中身はわからないが、聞くところによるとコメディ・タッチの作品になっているとのことで、バンドでもメジャー・コードの曲をたくさん書いてきただけありサウンド的にはハッピーになれる音楽を鳴らしている。また、デンマーク人ということでアルファベットにも独特の筆跡を持つヨーナスは、それを活かしてアートワークにも直筆のかわいらしい文字を自ら書いている。

 ミューとの違いはドラムやギターに頼らずに作られていること。ミューは3ピースになってからより一層個々の魅力や個性が際立ってきたように思えるが、今回はコンポーザーとしての彼、シンガーとしての彼、プロデューサーとしての彼が詰まったスコアになっていると言える。もちろん曲らしい曲だけでないのがスコアという形でのリリースの特徴ではあるけれど、ヴォーカルが入った曲の中にはミューを超えると言っても過言ではない名曲も含まれており、一つのソロ・アルバムとしても聞く価値は充分にあるはずだ。

 今年前半に見たヨーナスの印象からすると、意外にも自然な笑顔が印象的だった。それは4ピース時代のミューでは考えられないことだ。それだけ時代が変わり、彼自身も年齢を重ね、今は若い頃に比べて幸せな生活を送っているのではないか、それがおのずと音に現れてきているのではないか、そんな風に感じられる。そして何よりヴォーカルに自信が感じられるのだ。これはまだイギリスに住んでいたときに作った『And The Glass Handed Kites』には無かった要素だし、そのアルバムでベスト・デニッシュ・メイル・シンガー賞を受賞するなどの功績を残してからは徐々にシンガーとしての彼が開花していったように感じる。それから母国での生活が始まり、デンマーク国内で積極的に音楽活動を行なってきて、その結果がデンマーク映画のサントラを手がけるまでに至ったのだろう。今やコペンハーゲンを代表するビッグ・ネーム・バンドへと成長したのだ。

 アメリカにミューを観に行ったときには客席から「ジョナス、ジョナス!」とファンの声が聞こえてきたりしてなかなか理解されるのが難しかったかもしれない。しかしサイド・プロジェクトのApparatjikも評判が良く、徐々にヨーナス個人での活動が目立つようになってきているようだ。これもある意味運命なのだろう。その運命を上手く自分のものにしてしまうところは彼の不思議な能力というかアーティスト気質の成せる業なのだろう。こうして今本当に波に乗っている彼、皆が待ちわびている本家ミューの新作については「2012年までには作りたい」と米インタヴューで語っていた。これまで自身の暗い一面を出してきたミューの作品だけに、果たしてそこから完全に解放されたのか、或いはまだハッピーな曲を作る(歌う)ことに葛藤があるのか、それはまだわからないが、少なくとも少し寂しげながら心温まるチューンをこのスコアで鳴らしてくれていることは間違いなく、それがバンドにどう影響するのか或いは全く影響はないのか、そこら辺の動向も非常に楽しみにさせてくれる。どう転んでも美しい彼の楽曲は果たしてこれから何処へ向かっていくのだろうか?

(吉川裕里子)


 

retweet