I BREAK HORSES『Hearts』(Bella Union)

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I BREAK HORSES.jpg  幻想的なエレクトロ・サウンドから始まり、妖艶で暗く憂い気な多重ヴォーカルが流れてくる。これがスウェーデンの宝石と呼ばれる珠玉のシューゲイズ・バンドだ。20年前のシューゲイザーに比べエレクトロの比率がやや高く、冒頭での曲間が繋がっている演出も音の世界へ更に没頭させてくれる。タイトル・ソング「Hearts」は特に轟音と呼ぶに相応しく、丁度良く心地いい程度にヴォーカルを掻き消すノイズにまみれた大名曲だ。その後もマイブラでもなくジザメリでもない、個性的なシューゲイジングをみせてくれる。何よりこんなにダークなのに高揚感があり恍惚へと導いてくれる、それこそが21世紀に鳴らされるシューゲイザーの良さであり、それが決して下を向いておらず天を仰ぎたくなる気持ちにもなる辺りがときにネオ・シューゲイザーと称される所以だと思われる。そして全体を通して起伏があるのも大変嬉しい。北欧にはただただ同じような曲が並ぶシューゲイザー・バンドがたくさんいるのが実際のところだが、彼らは音や声を重ねて重ねて時折これでもかというほどの盛り上がりを見せてくれており、それなのに終始優しい声で癒される、それはまさに静かなる衝動と言えるだろう。

 基本的にはバンド・スタイルを主としている。つまりエレクトロ・サウンドは入っているもののビートを打っているわけではない。昨今で言う"踊れるロック"というわけでもない。あくまで音の重なり合いのうちの一つの素材として使っているのが面白いところだ。またフィーメール・ヴォーカルに惹かれるリスナーも必聴だろう。力強さは一切ないが、そこが彼らの魅力でもある。実は個人的にはシューゲイザーもフィーメール・ヴォーカルもどちらかといえばあまり好きな方ではないが、それでもここまで彼らの音楽に惹かれる理由はこの作品の完成度の高さと期待をはるかに超えるノイジーなアプローチにあるのだろう。かといってノイズ・ミュージックとは全く違い美しいことこの上ない。そう今はもう、がむしゃらにディストーション・ギターをかき鳴らす時代は終わったのだ。

(吉川裕里子)

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