GOLD PANDA『DJ-Kicks』(!K7)

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GoldPanda.jpg  少し指が触れただけで壊れてしまいそうなほど繊細で、ガラス細工のようなソフィスティケーションが施された上品なグルーヴ。でもそれは、人を寄せ付けない圧倒的なオーラというよりも、聴き手に寄り添う優しさと温もりにあふれている。もちろんフロアで流れてもよさそうなセットリストにはなっているが、家でヘッドフォンを通して向き合う、もしくは大事な誰かと一緒に過ごす時間など、謂わば"日常"に根ざした環境で聴いたほうがしっくりとくる。これはやはり、現実に対するささやかな抵抗として音を鳴らし、独自の世界観を築きあげるゴールド・パンダの音楽性がそう思わせるのだろう。

 彼の音楽は"日常"を匂わせながらも、その"日常"に潜むストレンジな扉を開いた先に存在する"ここではないどこか"を見つめているが、今回の『DJ-Kicks』でも同じ場所を見つめている。ダブステップと2ステップを基本とし、時折テック・ハウスも織り交ぜるなど、DJとして優れたバランス感覚を見せつけながらも、すべての曲から"ゴールド・パンダ"の雰囲気が漂う。不思議なことに、彼の細長い指と手にかかれば、どんな曲もゴールド・パンダの曲になってしまう。この魔法のような感覚が、テクニック以上に『DJ-Kicks』では輝きを放っている。

 DJMIXは、クラブの空気を疑似体験できるのが売りだったりもするが、本作は文字通り"ゴールド・パンダの世界"としか言いようがない、まるでおとぎ話のなかにいるような錯覚に陥ってしまう。アシッドやエクスタシーのトリップとは別のトリップ、強いて言うなら、"ゴールド・パンダ"という新種のドラッグだろう。もちろん本作は音楽であるから、なにかしらの副作用を心配する必要もない。もしあなたが音楽でしかできない時間旅行がお望みなら、ゴールド・パンダによる『DJ-Kicks』を手に取るのもいいだろう。

(近藤真弥)

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